第21章 人質
義経様の視線の先にある器を見て、
与一さんは気の抜けたように肩をすくめる。
「そりゃどうも」
(器のことがなかったら、
本当にこの人を斬っていたかもしれない)
そう思わせる迫力が
義経様の雰囲気にはあった。
「小娘、何を呆けている?」
『あ……』
鞍馬に声をかけられて、
意識がこちら側へと引き戻される。
自然と握りしめていた手は、
うっすらと爪痕が残っていた。
『まさか義経様が命を狙われるところに
遭遇するなんて思わなかったから…』
「愚かだな。これは戦いの中で生きることを
定められた男だぞ
刀を握る時に己の性と向き合い、
最も魂を輝かせる
常に身の危険に晒されているくらいが、
義経にとっては相応しい」
『っ、それは少し言い過ぎなんじゃ…』
(そんなの、、義経様には安らげる場所が
ないってことになる)
思わず言い返し鞍馬の赤い双眸を
見つめるけれど、鼻で笑われてしまった。
「言い過ぎなものか」
武士、しかも軍の総大将ともなれば……
命を狙われたり、結果としてその相手を
斬り伏せたりすることもあるのは
私にも理解できる。
(けど義経様は……襲いかけられた瞬間も
刀を突きつけた時も、あまりに淡々としてた
もし私が義経様の立場だったら、
あんなふうには振る舞えない)
義経様と私の間には、見えない壁が
存在している。
(やっぱり義経様を理解するのは
難しいのかな)
「さて、、宴はお開きだ
、不穏なものを見せて
悪い事をした。部屋に戻りゆっくり
身体を休めろ」
『……はい。失礼します』
頷いて返事をしてから、
思い足取りで広間を後にした。
(なかなか寝付けない………)
褥の上で、何度目かになる寝返りを打つ。
(あんなことがあったからかな…)
目を瞑ると、どうしてもさっきの光景を
思い出してしまう。
(反乱軍の総大将として立ち上がり、
命を狙われ続ける日々なんて、想像出来ない
それでも義経様にとっては当たり前の
日常なんだ)
『………考え事をしてたら、
余計に目が冴えてきちゃった』
ゆっくりと褥から起き上がる。
(外に出て、風に当たってこようかな)