第21章 人質
男から視線は逸らさないまま、
与一さんは口を開く。
「まさか宴席に乗り込んでくるとは
ちょっと驚いたけどな」
「下手人が誰かは調査によって
すでに当たりがついていた
この男も、それを察して自棄に
なったのだろう」
「気づいてなかった間抜けは小娘、
お前くらいだ」
『っ、そんなの見ただけで気づける
はずないよ』
(さっきまであんなに楽しそうに
話してたのに……)
「それで義経。どうするのだ、その男を」
「……」
表情を崩すことなく、
義経様は男を見下ろした。
「あなたの素性も雇った者の名前も、
すでに判明している
俺の命を手土産にして、
幕府に取り立ててもらおうとする
武士の手の者だろう」
(幕府に取り立ててもらうって…)
『頼朝様達は関係がないってこと……?』
「そーいうこと
ちなみに、が薬の道具を
所持している噂を流したのもその男だ
大方、雇った武士があんたが薬師って
知ってて、目くらましに使おうと
思ったんだろ」
『そうだったんですね…』
(鎌倉では色んな人に薬を作る機会が
あったから、どこかで話が漏れたのかな…)
「だが……詰めが甘かったな」
突きつけた刀の柄に、力が込められる。
(……っ)
みるみるうちに、男の顔が蒼白になっていく。
「命を狩ろうとする者は、
自らも狩られる覚悟をしなければならない
───あなたはできているか?」
「ひい……っ」
小刻みに震える男の喉元に、
刀の先がかすかに当たった。
(義経様はこの人を殺すつもりなんだ……)
男の顔は絶望に染っている。
震えて声が出ないのか、
喉から息が漏れていた。
「……」
義経様の目が鋭く細められて……
(っ、斬られる……)
命が奪われると覚悟した、次の瞬間───
「………」
(え………?)
義経様はすっと刀を引き、鞘に収めた。
「牢に」
「はいよっと」
自由になった男を、
与一さんがすかさず捕らえる。
無駄のない一連の動きを私は呆然と
見守っていた。
(どういうこと?私はてっきり……)
私の疑問を代弁するように、
鞍馬が口火を切った。
「なんだ、殺さないのか」
「与一の作った器が汚れる」