第21章 人質
ふと視線を感じて顔を上げると、
鞍馬と目が合った。
「………」
鞍馬は私をじっと見つめ、
失望したように眉を寄せる。
「どう見ても、取るに足らん女だ
玉藻はなぜ、こんな女と契ったのだ?」
『そんなこと言われても……』
「その程度の色香で籠絡したとは
どうにも考えづらい。
お前、玉藻に何をした?」
(この程度って……
否定はできないけど、失礼すぎる!)
『別に、何も…。
ただ怪我をしてたから守ろうとしただけです』
「たかがそれだけで、
あの玉藻が契りを交わしたと?」
(うっ、)
すっと細められた鋭い目つきにたじろぐ。
「鞍馬」
返す言葉に迷っていると、
義経様が助け舟を出してくれる。
「そこまでだ。も困っている」
(義経様………!)
「この女を庇おうと言うのか?
お前らしからぬことだな、義経」
鞍馬はつまらなさそうにお酒をあおった。
そんな光景を見つつ、
与一さんは肩をすくめる。
「せっかくの宴なんだから、仲良くいこーぜ
ってことで、は今から
俺に敬語禁止な」
『え?』
「与一さん、敬語って堅苦しい感じがして
あんま好きじゃないんだよなー
あんたもずっと敬語ばっかだと、
肩の力入りっぱなしっしょ?
ここはあんたにとって敵陣かも
しんねーけど、だからこそ、
たまにはゆるーくいくのも大事だぜ」
「そうだな。
気を張ってばかりいたら、心も身体も
持たないだろう」
「さっすが大将、わかってますね」
(確かに、一理ある……かも?)
二人の言葉に、妙に納得してしまう。
『ありがとう、与一さん』
「どーいたしまして。鞍馬も別にいいだろ?」
(えっ!?鞍馬も?)
さっきのやり取りがあったせいか、
身構えてしまう。
(いやいや、さすがに鞍馬に砕けた
話し方する訳には……)
「どのような話し方をしようが、
俺にとってはその辺の獣が鳴いているのと
同じだ。興味が無い」
(言い方!!)
『ええっと、さすがに獣とは
区別してもらえるとありがたいんだけど…』
様子をうかがいつつ、呼びかけてみる。
『あの、鞍馬さんは……』
「『さん』は不要だ」
(さんもいらないんだ……)