第21章 人質
夜が更けて───
(今日は色んなことがあったな……!)
ぼんやりと外を眺めながら、
夜の音に耳を傾ける。
昼間の騒ぎが嘘のような静けさに、
そっと息を吐いた。
(毒殺未遂の下手人と疑われて、
義経様自ら助けてくださって
それに…私のことを考えて、
あえて冷たい態度を取っていたことを
知ることができた)
『毒殺未遂、か…』
(直接義経様を狙うなんて。
いったい誰が犯人なんだろう……
幕府の人間?
でも頼朝様が人質交換中に
そんなことするはずもないし、
だとすれば他に義経様をよく思っていない
勢力がある?
うーん、政は詳しくないんだよなあ)
頭を悩ませていたその時……
「おーい。、
ちっとお邪魔していいかね」
(この声…与一さん!?)
襖越しに与一さんの声が聞こえ、
慌てて立ち上がる。
『はい、どうぞ』
襖が開き、足を踏み入れた
与一さんは私の前に座った。
「どーもどーも」
(突然、何の用だろう……?)
「ところで昼間はなんか
大変だったらしいな、あんた」
『ええ、まあ………
あの、こんな時間にどうされましたか?』
「夜遊びのお誘いに」
『え?』
「やることなくて暇してるだろ?
だったら与一おにーさんと
いいことしようぜ?」
『いいことって…』
与一さんは私の腕を取り、
にんまりと笑みを浮かべた。
「わざわざ口にすんのも野暮ってもんだろ?
そいつは行ってからのお楽しみってな」
(ええっ!?)
そして与一さんが連れて行ったのは───
(これは……)
お酒とご馳走が並べられた広間だった。
膳の前に座っている義経様と鞍馬が
こちらに目を向ける。
「来たか」
「…小娘。この俺を待たせるとは、
いい度胸をしているな」
「待たせるってほど遅くなった
訳じゃねーだろ?
ほれ、も好きなところに座んな」
『ええっと、これはいったい…?』
頭がついていかずに、与一さんに尋ねる。
「…与一、何を言ってを
連れて来た?」
「普通ですよ?
「与一おにーさんと一緒にいいことしよう」
って」
「こんなつまらん女相手に、
何がいいことだ」
(本当に私に興味無いんだな、
いっそ清々しい!)