第21章 人質
「あなたは強くて優しい人だから、
敵将である俺とこれ以上親しくなっては
思い悩むことになるだろう」
『っ、じゃあ私のためを思って
距離をあけて接してたってことですか?』
「あなたが人質として俺の軍に留まる限り、
できる範囲で快適に過ごせるよう図らう
のは当然だ」
(優しいのは、義経様の方だ)
雲間から覗く柔らかな陽の光のように、
義経様の思いが私の心に差し込む。
(お祭りで会った時、義経様のことを
知りたくなって…
あの時は敵将だからこそ気になるんだって
思った。
でも、今は…敵とか味方とか関係なく、
その気持ちが膨らんでいくのがわかる)
込み上げる素直な思いを義経様に伝えた。
『悩むことになったとしても、もう少し
義経様のことが知りたいです。
人質としての態度はわきまえますけど、
これからは気を遣わずに接して
くださいませんか?』
「…」
少し驚いたように呟いた後、
義経様は唇に微笑を宿した。
「わかった。心がけよう」
(っ、嬉しい、けど…………
そんな顔で笑うの、反則だ)
頬の熱が上がった気がした
平泉に着いてから無表情な義経様しか
見ていなかったせいか、
柔らかな微笑みに胸が高鳴っていく。
『っ………ありがとうございます。
改めてこれからよろしくお願いします』
「こちらこそ
双方の立場としてもてなすことは
しないけれど、今日のように困ることが
あれば言って欲しい」
『はい……!』
何かが変わり始めた予感が血潮の中を巡り、
静かに身体が帯びていった………
一方その頃───
毒殺未遂の調査を続ける与一の元へ、
家臣が報告に訪れていた。
「なるほど。
の疑いを義経様が
晴らしたってわけね」
「はい。
義経様が幕府からの人質を
庇われるとは少し驚きました」
「…引き続き観察しねえとなー」
「はい?」
首を傾げる家臣に、与一はにやりと
口の端を上げる。
「なんでもねえよ。報告ありがとな」
「とんでもありません。
では、失礼いたします」
家臣がいなくなり、与一は先ほど
上がってきたばかりの報告を思い返す
「さーて、どうでるかな」