第21章 人質
「ずばり、のこと
気にしてるんでしょ」
「ああ。
幕府からの人質で、いずれ戦場で
敵になる相手だ。
気に留めはしている」
至極真面目に答える義経に、
与一はがくりと方を落とした。
「あー・・・、そういうことじゃない
んですけど。ま、いいや」
「とにかく気にしてんなら、
声とかかけてみればいいんじゃないですかね
狐憑きがどんな女か、興味無いです?」
与一の提案に、義経は首を横に振る。
「知ったところで、どうせ戦の前に
断ち切れられる縁だ。
深入りする必要はないだろう
それに……」
「それに?」
「に立場をわきまえるように
言っている
それを自ら犯すようなことはしたくはない」
「ほー?
義経様は真面目ですねえ。
もうちょっと肩の力を抜いたらどうです?
ほれ、ぶらぶらーっと」
「力なら既に抜いている
信を置いているお前の前だからな」
「…………
やー…、義経様、そういうところですよ」
「何がだ?」
言っている意味がわからず、
義経は不思議そうに首をかしげる。
その様子を見て、与一はため息を吐いた。
「……’自覚がないところがらしいっつーか。
まあだから俺もあんたについて
行ってんだろうけど」
「よく分からないけれど、
褒めてくれていることはわかった。
礼を言おう」
「どーいたしまして
……っと、器が空になりましたね。
もう一杯どうですか?」
「では、少しだけ」
与一が義経の器にとくとくと酒を注いでいると
廊下から慌ただしい足音が近づいてきて──
「義経様!」
「どうした?」
襖が開き、ただならぬ表情の家臣が、
義経の前に膝をついた。
「っ………申し上げます。
義経様の膳の毒見をした者が倒れました」
家臣の言葉に、与一の目がすっと細められた。
「命に別状は?」
「一命をとりとめましたが、
予断を許さない状況です」
「そうか……」
重い沈黙が訪れる中、口火を切ったのは与一だ
「毒が盛られていたことは確かですし、
下手人を捕まえないとですね」
「ああ」
義経は家臣に向き直り、指示を下す
「ここ二、三日で館に出入りしたものを
調べろ」
「はっ、直ちに」
家臣は深々と頭を下げ、部屋を後にした。
家臣がいなくなるなり、
与一は大きく溜息をつく