第21章 人質
「話は以上だ。
女を部屋に連れて行け」
「はっ!こちらへ来い」
家臣に促されて、私は席を立つ。
義経様の底知れない瞳が怖くて、
足早に広間を後にした。
案内するなり、家臣は部屋から出て行く。
一人きりになったことで、
ようやく緊張感から解放された。
(……情けない。まだ手が震えてるなんて)
不安から逃れるように、
ここに来ると決めた時のことを思い浮かべる。
(頼朝様も景時さんも私の身の安全だけ
じゃなくて、心のことも気遣ってくれてた
だから私に話を通さないで、
断りの返事をしようとしてたんだ
……きっと、こうなることがわかっていたから)
(義経様の胸の内は分からないけど……)
だからって、あの時決意した気持ちは
嘘じゃない。
『無事に帰るって、みんなと約束したんだ』
顔を上げて庭先の空を見ると、
雲間から月の光が差し込んでいる。
気づけば、手の震えは止まっていた
との対面から数刻後───
義経が部屋に戻って間もなく、
酒を手にした与一が押しかけてきた
「義経様、どうです?一杯やりませんか」
酒を掲げる与一に、義経は二つ返事で頷く
「ちょうどいい、俺も飲みたい気分だった」
「そんじゃま、一杯といわずぐいぐいっと
いきますかー
っとまあ、義経様はあまり飲まない
でしょうけど」
「眠くならない程度にする。
知っての通り、酒には強くない」
器に酒を注ぎ、二人きりの酒盛りが始まった。
「弁慶も向こうに到着してる頃ですかねー
そういや人質に選ばれた時、
あいつめちゃくちゃ渋ってましたっけ
「義経様と離れるなんざ断固拒否する」って
ほーんと義経様が大好きですよね」
「弁慶を信頼しているからこそ、
安心して人質として送り出せた」
「そう言って、
弁慶を丸め込んだんでしたよね」
「丸め込むとは人聞きの悪い。
俺は本心を言ったまで」
義経は器を揺らしながら、思考を巡らせる。
「人質、か…」
「なあに浮かない顔してんです?」
「この顔は生まれつきだ。
いつも通りだと思うけれど」
「わかってませんねえ
義経様はあまり表情が変わらないけど、
与一さんくらいになるとちょっとは
読めるようになるんですよ?
どれ、何を考えてるか当ててしんぜよう」
与一は義経をまっすぐ見据え、
笑みを浮かべる。