第19章 陰陽師助手記録帳参
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"「簡単に兄を嫌える弟はいない」"
(あの言葉は『誰か』に重ねている
ように聞こえた。その人はきっと……
ううん、それだけじゃない)
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「兄弟と言っても所詮は腹違いだ
育った場所も、食った飯も違う」
(私歴史にはそこまで詳しくないのよね)
『そうなんですか?
じゃあ、おふたりが初めて会ったのって…』
「俺が平家相手に挙兵した時だ
義経は少ない手勢を率いて
わざわざ加勢しに来やがった
──会ったこともねえ
生き別れの兄の為にな」
『じゃあどうして、
義経様は、頼朝様の元へ駆けつけたんでしょう』
「──知らねぇな」
言葉とは裏腹に頼朝の唇には
珍しく苦笑が浮かんでいる
「ま、あいつのお陰で
戦いが随分楽になったのは事実だが」
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(確証はないけど、私には……
頼朝様も心から義経様を憎んでいないように
見えた)
(もしそうだとしたら……)
『殺し合う以外の道はないんでしょうか?』
「とうにその道は閉ざされた」
『っ、でも』
「どうして」
言いかけた言葉は、義経様の声に遮られる。
「どうしてとこまで心を砕く?
あなたは巻き込まれただけだろう
俺と頼朝公が憎しみ合おうが
殺し会おうが……関係ないはずだ」
『っ、そうだとしても』