第19章 陰陽師助手記録帳参
『…ありがとうございます』
(あれ?でもどうして…)
再び疑問が湧き上がる
『…私が泰親さんの、阿部家の屋敷に
いることを、どうして知ってるんですか?』
義経様は少し躊躇ったように
口を開いた
「……実はあなたが京へ来ることを知っていた
そしてあやかしを退治していることも」
『えっ』
「縁のある商人づてに聞いていた
狐憑きが京にいるから
あまり関わらないように、と」
だけど義経様は私を助けてくれた
『そうだったんですね…』
(こんなにも優しい人が、
頼朝様と敵対しているなんて)
「……あなたが危なっかしくて
身体が勝手に動いていた
──────あの時も。」
『え?』
(あの時?)
「……いいや、気にするな」
『はい、』
引っかかったがこれ以上は聞かなかった
そして勇気を振り絞り、口を開いた
『あの……義経様は頼朝様のこと、
どう思ってるんですか?』
「………」
一陣の風が私達の間を通り抜ける
「俺はあの人のことが………憎い」
『っ………』
向けられた眼差しに息を呑む。
そこには怒りとも悲しみとも
取れない感情が浮かんでいた。
これ以上踏み込むことはできなくて、
口をつぐむ。
(でも…ただ憎いだけには見えない)
────────────・・・
"「簡単に兄を嫌える弟はいない」"
(あの言葉は『誰か』に重ねている
ように聞こえた。その人はきっと……
ううん、それだけじゃない)