第18章 陰陽師助手記録帳弐
「対処療法じゃなくて、根本的に二度と
怪異が起こらないようにしたかったんだ」
『それがあのお二人に嘘をついた理由
なんですね』
「真実は虚構よりも毒になることもあるから
憎む相手が本気で後悔してると知ったら、
自分を滅ぼしかねない怒りも和らぐかも
しれない
お金を使って豊かな生活をしてるうちに
過去の苦痛を忘れていくかもしれない」
静かに泰親さんの声が夜風に溶けていく
『…私には、やっぱり優しい考えに思えます』
「──とっても残念だけど………」
泰親さんがふと足を止める
苦い微かな笑みがその唇を掠めて消えた
「俺はただ"優しさの真似事"を
してるだけだよ」
(どういう意味………?)
いまいち掴めない泰親さんの本質に
触れかけたような気がして胸の奥がざわめく
「──君の方こそ」
『え?』
「昨夜はあんなに生霊を怖がってたのに
あの娘さんを傷つけた実光様に本気で
怒ってたよねえ
部屋に戻ってきた時、正直驚いた」
(そうだったの?)
「──怖くなかった?」
『怖、かったですよ。普通に
泰親さんの立場を考えたら抵抗するのも
少し躊躇った所もありましたし……』
(でも、あの時……)
助けてくれた人の温もりはひどく安心した
『でも、私単純なので
怒りが先にこみ上げちゃいました…』
「違うよ
君は自分の為よりも、
人の為に心を動かせるんだ
優しいっていうのは、
さん、君みたいな人のことを
言うんじゃないかな」
『それは褒めすぎかと……』
「自分の価値を君はまだ知らないだけだよ」
(実際に人を助けた泰親さんの方が
凄いのに、どう言ったら伝わるかな)
(あ)
ふとある言葉を思い出した
『私が勇気を出せたのは泰親さんのおかげでもあるんです』
「俺の?」
『私におしえてくれたでしょう?
誰も好きで生霊になるわけじゃない
人は哀しい存在なんだって』
「──よく覚えてたね。そんな言葉」
『人間であっても誰かの悪意で
傷ついて、あやかし側になることがある
それを知ることが出来たから
実光様を許せなかった
──泰親さんはああいう哀しいものに
昔から触れてきたんですね』