第18章 陰陽師助手記録帳弐
ゆっくりと草むらに近づいて
泰親さんがしゃがみこむ
他の人が見ても、きっと何か
落し物を探しているようにしか
思わないだろう
「ちょっと教えて欲しいことがあるんだよ
いいでしょ?」
【…………】
遠くであまり聞こえないので
もう少し近づいてみる
【……陰陽師は嫌いだ】
「そう言わずに。
おまんじゅう、美味しかったよねえ」
(あやかしと普通に会話してる)
泰親さんは野良猫でも撫でるかのように
茂みの闇に手を伸ばす
(危ない、とは思わないんだろうなこの人は)
普通に見える程度の人でも
わざわざあやかしに絡みには行かない
行くとすればよっぽどの物好きだ
【は、な、せ!】
(抵抗してるみたいだけど……)
抵抗するように茂みも揺れる
やがて観念したようにその揺れも
収まってくる
【あいつ、テキ】
(敵?)
「あれ、さん
着いてきてたの」
急に泰親さんが振り返り驚く
『っええ、まあ
何してるのか気になって…』
「聞いても面白くないだろうし
残ったお団子でも食べといで」
『………わかりました』
にっこりと「あっちにいて欲しい」と
言われた気がする
(聞かせたくないのかな)
大人しく言うことを聞く
線引きは間違えない程度の大人ではある
(もしかしたら私がいたら
集中できないのかも)
残りのお団子に舌鼓をうつ
腰掛けてしまうとこの距離では
泰親さんの声しか聞こえない
「ふむふむ、なーるほどねえ
ま、そんなとこだと思ってたけど
有力な情報、どうもありがと」
うんうんと聞いていた泰親さんが
おもむろに立ち上がる
「さん、お菓子、
もう一個投げてあげて」
『?はい』
皿に残る団子を
ひょいっと投げるとまた黒い手が伸びてきた
すると、ざざざっと音を立てて
目にも止まらぬ速さで逃げていった
『お疲れ様です
あのあやかしは?』
「俺たちが探してるあやかしじゃないけど
お菓子を対価に情報をもらった」
『なるほど、人に聞くよりしってそうですね』
「そうそう
闇深い情報とか、特にね」