第17章 陰陽師助手記録帳壱
【うぅぅ………】
女性の生霊が光に触れた途端、
苦しげに呻く
その動きが緩慢になり
血走った目だけが恨みを込めて
泰親さんをまだ睨んでいた
『天才陰陽師……』
以前盛長が言っていた言葉を
思い出し、ボソリと呟いた
あの噂は伊達じゃなかったってことだと
思い知らされる
(そういえば、有名な阿部家の陰陽師は
安倍晴明だったけど、
この人よりすごい陰陽師は
きっとこの世には居ない)
【おのれ………陰陽師っ…】
最後の力を振り絞るように
女性が嗄れた声で絶叫した
【呪ってやる!】
(──────っ)
「いいよ」
(え、)
間髪入れず答えた泰親さんは
ゾッとするほど儚く微笑っていた
袖が風を孕んで広がり、
そこから伸びた両手が女性の頬を
するりと挟む
「優しく呪って
ううん。酷くてもいいや
……できるものなら」
この世のものではないような
妖しく美しい光景に息を忘れる
(泰、親さん?)
どうしてそんなことを──
【く…………】
生霊の青ざめた顔にさえ、
泰親さんの異質さを嗅ぎとったように
畏れが走っていた
半分透けていた身体が揺らぎ始め、
ゆっくりと薄れていく
「じゃあね」
別れの言葉を呟いて
泰親さんは物憂げに睫毛を伏せた
(どうして、そんな顔をするの?)
まるで呪われなかったことを
残念がっているようだ