第17章 陰陽師助手記録帳壱
「だけど」
(あ……)
なんの火種もなかったはずなのに
妖しく炎が上がり、
人形を灰にする
「ほら、人違いだ」
【………!】
(そうか、身代わりの術を解いたんだ!)
だったらもう恨む理由も…
【騙したなぁァ!】
女性の怒りを示すように
周りの空気が重く冷たくなっていく
(うーん、逆効果……)
「落ち着いて」
【ああああ殺す……!】
(いけないっ)
『泰親さんっ危な…』
「この前、さんには
みっともないとこ見ちゃったし、
──少し、本気だそうかな」
泰親さんがゆるゆると
白い指を女性に向けた
「乱暴するのは、
好きじゃないんだけどなあ
話せば分かるって段階、
…とっくに超えちゃってみたいだね」
(これは……一体誰なの)
依頼主の前での振る舞い、
いたずらっ子のような笑みをうかべた
陰陽師
(……じゃない)
これはきっと
天才陰陽師の時の顔なんだ
泰親さんの薄い唇には
もういつもの笑みは残っていない
「残念だけど、もう俺からは逃げられないよ
……諦めて?」
紫の雷光が指先からほとばしり、
夜闇をぎらりと灼いた
夜の空気ごと冷たい針で縫い付ける
ように言の葉が紡がれていく
《──咎人は牢で歌え。
それは罪に満ちた子守唄。
そう、怒りが怠惰に溶けるまで
どろどろと深く眠れ、急ヶ如律令…》