第2章 カウンターパートの赤いやつ
そのフロアだけ物々しい雰囲気に包まれていたのは、ある病室の前で多数の護衛が神経を尖らせているからだろう。
並の人間ならばあまりの威圧感に吐くかもしれない。
そんな緊張で守られた病室から、殺伐とした空気にそぐわぬ二人の少女が姿を現した。
一人は緩くウェーブのかかった、淡いミルクティー色の髪をなびかせて。
もう一人は、女子にしては高めの身長を、中性的な装いに包んで。
どちらも玲央には見知った顔である。
目的の人物が予想通りの場所にいたことに、彼は少し気を良くした。
先にこちらに気づいたのは、ミルクティーのほう、もとい皆元和泉だった。
ぱちりと目が合ったので、笑顔を返す。
会釈する和泉の後ろから、刺すような視線を送ってきているのが、確か小原緋那という名前だったはずだ。
何かにつけて赤司に突っかかっている姿をよく目にしたが、今は競争相手がいないからか、やや元気がないように見えた。
「お久しぶりね、二人とも」
そういえば、二人に会うのは先日のパーティー以来だ。
そのパーティーで赤司が倒れた後、黒子の処遇について、色付きの家の間で大いに議論が紛糾した。
その余波は、当然ながら色付きに従う玲央の家にまで及んだ。
喧喧囂囂の怒鳴りあい、ならぬ話し合いの末、結局『キセキ』の高校卒業まで、「本人たちの意思確認が必要」との理由を以て、保留という結論に辿り着いたのだ。
最初から、本人の意思など問題にしていないくせに。
会議の一部始終を、父の後ろに控えて見届けた玲央は、しゃあしゃあとのたまった各家の代表に、心中でそう毒づいた記憶がある。