第6章 うすべにひめ
そのまま誤魔化された白河は、もう用事がなくなったらしく食堂を出るらしい。
「なんかいきなり邪魔しちゃったみたいだね」
赤司くんに、特別な席だからって注意されちゃった。としょげる白河の言葉に、和泉は心のどこかで安堵した。
白河と話していた赤司と灰崎も準備を整え、全員で席について昼食を取る。
普段と少し違う、特別な場所での、賑やかな一席。
……私は、この席にいても叱られない。
その事実が確かに胸を打つ。
見ているばかりの中学時代からすると、とても大きな進歩だった。
赤司くんの隣にいられることが嬉しくて、
キセキのみんなと笑ってお喋りできることが楽しくて、
他の生徒が夢にまで見るような場所に存在することを許されて。
これで、赤司くんの記憶のヒントでも見つかれば、もっといいのだけど。
実のところ、失われた記憶については一行に進歩が見られなかった。
思い出話やペンダントの事、例のパーティーに無理を押してまで招待してくれたことも伝えてはある。
しかし和泉関連のことだけは、どうしても思い出せないらしく、付き添う実渕も困り果てていた。
まるで、襲撃のショックで記憶が飛んだというよりは、和泉の記憶だけ狙いすましたように奪われたような気すらする。
しかし、仮に魔法とも形容される魂の力を振るったところで、相手は斑類の重種の中でも頂点に位置する、"人魚"の血筋の赤司である。
そんな芸当ができるのは、同じ重種のキセキ程度のものだったが、それは考えられない。
いや、考えたくなかった。
こんなふうに食卓を囲んで、笑顔で話せるような友達なのに。
この中の誰かが赤司を殺しかけ、記憶まで奪ったなんて、和泉にはどうしても、信じようがなかった。