第6章 うすべにひめ
今も無邪気に赤司や灰崎と話す白河を見て、不満を抱いて募らせている生徒は少なくないだろう。
本来ならば自分より劣っているはずの人間が、自分を差し置いてキセキの世代と接している。
元々猿人ばかりのコミュニティで生きてきて、猿人より優れた能力の持ち主としてちやほやされてきたような低級種の生徒には、このことを屈辱と感じる者もいるはずだ。
白河は灰崎に招待されたと言った。
灰崎の目的は、先ほどの様子を見るに、”赤司のものになった和泉自身”で間違いはない。
おそらく和泉の知り合いを帯同させることで、警戒心を解く目的もあったのだろう。
現に彼女は灰崎の前で無防備な状態になり、黄瀬がいなければ危うい状態になった。
赤司が和泉にネクタイを贈ったことで、結果として白河が特等席へ釣り出され、他の生徒からの恨みを買っている。
今後もこのようなことが続けば、溜まった鬱憤はいずれ白河に向かい、彼女を傷つけるようになるだろう。
その悪意で、白河が死にかけるようなことも、もしかしたら起こりうるかもしれない。
「それって、テツくんには子供産んでって頼めないから、白河さんを意図的に先祖返りにしようとしてるってこと? 赤司くんが?」
「断定はできないが、あいつの考えそうなことではある」
思わず小声になる桃井に、メガネの位置を直しながら緑間が返す。
「だめだよ、そんな…イジメを誘発させるなんてこと」
「和泉ちん、サルに甘すぎー」
「サルとかそういう問題じゃなくて…だって、白河さん、一人だけ猿人でも頑張ってるのに。そんなことしたら可哀想だよ!」
「和泉っち…」
「もしもーし、あのー、呼ばれてますけど―?」
和泉の健気な優しさに感動していた一行の耳に、突如能天気な声が割って入ったのはその時だ。
「あれ、えっ、白河さん!?」
「そんな驚かなくても……」
いつの間に、と驚く和泉に、白河は大げさにショックを受けた顔をする。
「ていうか、どうしたの?じっくり話し込んじゃって。さっきからご飯できたって、カウンターから呼ばれてるのに」
「あ? そりゃオメーの」
「青峰くん!」
言いかける青峰を桃井が止めた。