第6章 うすべにひめ
「そういえば」
緑間の言葉に、和泉の思考が途切れる。
「あいつは白金の血縁だそうだな」
「あれ、ミドリン早耳だね?」
「高尾から話は聞いているのだよ。全く、いくら時間が無いからとはいえ……赤司も酷なことをする」
一体、何が「酷なこと」なのだろう。
緑間の言葉に疑問を抱くも、和泉はその答えをすぐに見つけた。
白河夜船は猿人である。
正確には、「サル科の動物の魂を持って生まれた人間」だ。
その点では、他の動物の魂を持って生まれた人間である斑類と、何も違いはなかった。
人間の身体に動物の魂。それがこの世界の”人類”である。
彼らは「魂の力の強さ」でランク付けがなされ、
強い力を持つ血筋の者が、餌になる弱い生き物の血筋を狩りつくしてしまわないようにと、魂が強ければ強い者ほど出産が困難になるように、遺伝子が設定された。
しかしあるとき、サル科の魂の人間だけが妙な方向に進化を始めた。
彼らは魂を認識することを捨てた。
見ざる。魂を見ないようにする。
聞かざる。魂の鳴き声を聞かないようにする。
言わざる。魂について知らないようにする。
そうして自分たちの力に蓋をして、誰も食い物にしない代わりに、強い繁殖力を得る方向へと進化したのだ。
猿人は斑類であることから降りて、人口の半数を超えるまでに繁栄した。
入れ替わりに、そうしなかった他の魂のものたちは、一気に少数派へと追いやられた。
ここまで圧倒的に数の差がついてしまうと、仕方なしに猿人と結婚する斑類も出始める。
彼らの間に生まれた子は、やはり猿の遺伝子の力で魂に蓋をされ、普通の猿人として生まれてしまうため、強力な因子を体の内に秘めていようとも、魂が認知できない以上は、御家断絶扱いとなった。
しかし稀に、斑類の血が混ざった猿人が、ふとしたことから斑類として覚醒することがある。魂を感知できるうえ、強力な繁殖力を持つ彼らは「先祖返り」と呼ばれ、重種の子を孕む母体としては、この上ない逸材とされた。
黒子テツヤがそれにあたる。
今は白河夜船もその候補者だ。
そして、猿人の遺伝子を先祖返りとして目覚めさせるため、外部の人間が取れる方法が、一つだけ存在した。
素質のある猿人が死にかけるように仕向け、生存本能により遺伝子の覚醒を促す、という方法が。