第5章 お祈りはいつも届かない
《詳しくはお昼に、食堂で話そう》
とだけ緋那ちゃんに送信して、メッセージアプリを閉じる。授業が始まってからもなんとなくよそよそしいクラスメイト達を尻目に、黒子くんと白河さんは何かと二人連れで行動していた。同じ誠凛寮に住んでいるからだろうか、そういえばこの前食堂で見かけた時も、火神くんと三人で楽しそうにしていた事を思い出す。
数学の時間、返された小テストを受け取りに白河さんが席を立つと、何人かが彼女のことをじろりと睨んでいるのがわかった。クラス最高点を取ったと先生に褒められて照れくさそうにしている彼女は、背中に集まる敵意になんて微塵も気づかない。
あの時はこうなるなんて考えもしていなかったけれど、緋那ちゃんが食堂で彼女を見掛けて「ぶりっ子」と評した理由が、なんとなくわかってしまった。ボロを出さないというか、大人しいようでいて、これと言った弱点が無いのだ。
白河さんは確か特待生として入学した、と噂で聞いているし、勉強面は見る限り申し分ない。運動でも、斑類に身体能力が劣る猿人にもかかわらず、体力測定でクラス平均よりやや上位に収まり、特に走りと俊敏性の測定にかけては、元運動部に混じって好成績を叩き出していた。
交友関係も広く浅く、基本聞き役に回っているようであまり発言しないから挙げ足をとれないし、だからと言って暗くもない。
成績の良さを鼻に掛けないから、先生からの覚えもいい上に、食堂では先輩と一緒にいる姿を目にされることもあって、いつの間にか彼女を迂闊に叩くと「猿人ごときに嫉妬している」と周囲に思われかねないような状況が出来上がっていた。
同じ寮で生活している黒子くんの白河さんへの態度は概ね好意的だし、きっと私生活でも問題行動は起こしていないのだろう。
こうして並べてみると完璧に見えなくもないけれど、この学園にはさらにその上を行く人物が――キセキの面々がいるから、結果的には大して目立ちもしないのだった。
もしも彼女が斑類だったら……赤司くんは白河さんに興味を示したのだろうか。あの"白金家"と関わりのある彼女に。
そんなことを考えているうちに、午前の授業は終わってしまった。
食堂にはキセキと関係者専用の席がある。今日からはそこで昼食をとることになるはずだ。