第5章 お祈りはいつも届かない
キセキと関係者の専用席は、食堂の全体を見下ろせるような中二階に設置されていた。
広めの幕見席に調度をしつらえたような風情で、両端の階段から昇り降りできるようになっている。
元々食堂の天井自体が高いことと、下の席を見渡せることで解放感はあるのだが、逆に言えば下の生徒達からも専用席が見えるという訳で、とにかく目立つ席だ。
キセキがいない時は歴代の学内最重種だけが利用できる席らしく、去年までは色付きの家の補佐、無冠の五将と呼ばれる家の人達が席を守っていたのだとは、本人たちから洛山寮で既に聞いていた。
そして、そんな席に座れるということは…位置的にどれだけ端であったとしても、他の生徒にとっては高いステータスを持っているぞと示せる訳で、憧れの的であるはずなのだけど。
キセキの皆と黄瀬君と、緋那ちゃんと食堂に入った瞬間、妙に騒がしい空気に包まれる。それもそのはず、入り口から見上げた専用席には、なぜか一人の先客がいた。
「ねえ、何であそこに、あのサルがいるわけ?」
「飯が食えるなら席なんてどうでもいいだろうが」
むくれる紫原君の言葉に、青峰君があくびを噛み殺しながら返す。
私たちの視線の先。文字通り生徒憧れの特等席では、この学園唯一の猿人もとい、白河さんが、凄まじく殺気立った雰囲気などどこ吹く風、お弁当箱から幸せそうにサンドイッチを頬張っていた。
「ほ、ほら!白河さん、斑類のこととか、全然わからないから、きっと間違って座っちゃったんじゃないかな?」
「とにかく、本人に事情を聴いてからにしようか」
庇う桃井ちゃんに、赤司君が同意した。確かに、何も知らない相手に対し、頭ごなしに怒るのも大人げない。
そうして特等席に上がった私たちの説明を聞き、食事の手を止めた白河さんは、ことりと首を傾げた。
「あれ? 私も呼ばれてここに来たんだけど……?」
「呼ばれて、ってまさか」
思い当たったらしい黄瀬君の顔色が変わる。
この場におらず、かつ正式に特等席に誰か招待できる人間は、
キセキ世代の一人だけだ。つまり。
「おう、オレが呼んだんだよ、リョータ」
「あ、しょーごくん!!」
反対側の階段から現れた銀髪の招待者に、白河さんが目を輝かせた。
「仲、いいの?」
私の問いに、彼女は楽しそうに笑む。
「仲良しだよー、色んなイミで、だけどね?」