第5章 お祈りはいつも届かない
「頼もしい助っ人?」
虹村さんというのは一つ上の先輩で、ちょうど灰崎くんのお目付け役も兼ねている人だった気がする。
家柄上は灰崎くんの方が主家にあたるのだけれど、個人的な力関係は虹村先輩の方が上らしく、灰崎くんが何かやらかすと、尻拭いという名の鉄拳制裁をお見舞いする人だ、というのは緋那ちゃんから聞いて知っていた。
そんな先輩の他に、灰崎くんを止められるような、頼もしい助っ人なんているのだろうか。
「涼太とは同じクラスだろう。離れている間の護衛……というわけでもないが、なるべく一緒に行動してくれるように頼んでおいたよ」
赤司の言葉に、桃井がぽんと手を打った。
「そっか、きーちゃんの周りっていっつも賑やかだから、灰崎くんが何かしたら嫌でも目立っちゃうもんね」
「っつーか黄瀬の奴、灰崎と仲悪いから、近づいただけで騒いでうるせーかもな」
「なんだ、大輝もわかっているじゃないか」
それは助っ人というより番犬なんじゃ、と喉から出かかった言葉を飲みこむ。
確かに黄瀬くんがいてくれるなら、当面の間は大丈夫かもしれない。ほとぼりが冷めるまで単独行動はしないようにしようと心に決めて、次に気になった疑問を投げかけようとした、その時だった。
制服のポケットから、小さな振動。
震え方から、スマホにメッセージアプリの着信が入ったのだと気づく。
発信元は緋那、本文は《まずい》の一言。
……なにか、違和感がある。
画面を押そうとすると、また新たなメッセージが、画面の下からせり上がる。
《火神の奴、白河とエンゲージしたみたいだ》
エンゲージ。
契約だとか、婚約だとか、そういう意味の言葉だ。
いまいち緋那の言いたい意味が伝わってこず、和泉は思わず首をかしげた。
「どったのー、和泉ちん」
「……紫原くん」
「んー?」
「エンゲージって、なんだっけ?」
「え、なんかお互いにネクタイ交換することじゃなかったー? 一方的にあげるんじゃなくて」
あとは婚約みたいな意味じゃなかったっけー。
もそもそとお菓子を食べながら答える紫原に「そっか、ありがとう」とだけ返して、スマホをポケットに静かにしまった。
白河さんが、重種と恋人になった。
喜ぶべきことのはずなのに、なぜだろう。
さっきから、嫌な胸騒ぎが収まってくれないのだ。