第5章 お祈りはいつも届かない
結局の所、手段を選んだか選ばなかったの違いのみで、自分も同じような加害者になる可能性は十分にあったのだ。
ただ、なりふり構わなくなる前にキセキと仲良くなれただけ。
幸運だったから、誰かを傷つけることなく済んだ。それだけの話だ。
だから、使われたことを責める気にはなれなかった。
そして思いっきり傷ついて、ひとしきり泣いて、そうせざるを得なかった皆の境遇に同情した後、自分は加害者にならなかったことに、和泉はひどく安堵した。
だって、きっと優しい子でなければ、赤司君の隣に立つ資格はない。
でも今回のことで――たとえ赤司君を助けるためとは言え、白河さんを陥れたら、胸を張って赤司君の隣に立つことができなくなるような、そんな気がした。
やっぱり、白河さんとは、一回きちんと友達になるべきだ。
がばっと突っ伏していた身を起こして、和泉は意気込んだ。
何もなければ無いで解決だし、もし仮に悪いことを企んでいたとしても、友達に正面から説得されれば、きっとやめてくれるかもしれない。
白河さん本人だって、何も知らずに白金の悪い大人に利用されているだけという可能性もあるのだ。
だって彼女は猿人なのだから。
白金家とキセキの因縁も、それどころか斑類の存在も、まず感知することが不可能な人種が、赤司君絡みのトラブルをどう理解することができるって言うのだろう。まず無理じゃないか。
桃井ちゃんの警告は気になるけれど、学園内にいる限りはセキュリティがある。
何せこの寮は、最高階級の『人魚』が代々籍を置くため、立ち並ぶ寮舎の中でも最も堅牢にできているし、そもそも部外者は寮区に立ち入ることすら難しい。
だからきっと大丈夫なはずだ。
悩んでいても仕方ない。前向きに行かなくちゃ、きっと次には進めない。
甘いと言われても別に良い。これといった取柄はないけれど、だからこそ優しい人であり続けたかった。
心配症の緋那ちゃんには怒られそうだけれど、それは仕方ない。諦めよう。
あの子は頭がいいから、いつもみたいにお願いすればきっといい案を考えてくれると思う。
結局、そこまで考えをまとめたところで、自習の時間は終わってしまった。
机の上をすっきり片づけながら、時計を見る。
そろそろ消灯かと思っていたら、不意にスマホの通知音がした。
赤司君だった。