第5章 お祈りはいつも届かない
中学時代にキセキと仲良くなれてからは、一時期和泉の周りに沢山の人が集まるようになった。
元々引っ込み思案だったから、友達もうまく作れなくて、これと言った得意分野もないから、自分に自信も持てなくて。
「私なんか、どうせ」とくすぶっていた和泉を、その人たちは優しい言葉でいっぱい励ましてくれたのだ。
とても勇気づけられたし、そのおかげで赤司くんに告白しよう、と心を決めることもできた。きっとあの励ましがなければ、自分は今でも彼を陰から見つめるだけで終わっていただろう。
本当にありがたかった、と今でも思っている。
でも、そんな和泉の感謝と裏腹に、しばらくすると周囲から人は離れていった。
「可愛いんだから自信を持って」と励ましてくれた同級生も、「あなたは自慢の後輩よ」と励ましてくれた先輩も、いつの間にか和泉に声を掛けることはなくなっていた。
何か、無意識のうちに周りを傷つけるようなことをしてしまったんだろうか?
周囲から人が減った原因がわからなくて、そんなことも気付けなかった自分に、また自信を失った。
でも、皆が「良いよ」と認めてくれた自分のことを必要以上に卑下するのも、きっと失礼なことじゃないのだろうか。
どこが悪かったのか、知るのは怖いけれど、思い切って聞いてみよう。そして、ダメなところは謝ろう。
そんな一大決心をした和泉に、あの言葉は突き刺さったのだ。
『友達って勝手に思ってたのは、貴方だけでしょ?』
そう吐き捨てたのは、「自信を持って」と背中を押してくれた同級生だった。
『本当に友達って思ってたの? バカみたい。皆あなたに良い顔をして、キセキに自分を良く印象付けようとしてた、それだけの話でしょ。利用されてたって気づかなかったの?』
あなたって、本当におめでたいのね。
冷やかに言われて、返す言葉が見つからなかった。
それがあまりにも事実だったからだ。
私は、自分に良くしてくれた人のことを、キセキの皆に教えただろうか。
……答えは否だ。
いや、教えたところで、彼らは取りあいもしなかっただろうけれど。
ここでは皆、キセキに好かれようと必死になっている。
踏み台にされたことにひどく傷つきはしたが、和泉にはそうする人の気持ちは痛いほど解った。
昔の自分だって、キセキと親しくしたいと望んでいたのだから。