第5章 お祈りはいつも届かない
正直騙すようで気が引ける。
でも、赤司くんの記憶に関わるかもしれないことが分かった以上、白河を放っておく理由もなかった。
和泉が教室で目にする白河夜船は、基本的に人当たりのいい子だ。
同じクラスの生徒なので何度か話したことがあるが、周囲の好意を受け取ることに酷く慣れている。そんな印象を受けた。
友達関連のトラブルで困ったことも、無いのかもしれない。
大概そういったいざこざは、何かしらの友人グループに所属することで起こるのだが、現に白河はそれを上手いこと回避している。
それが最もよくわかるのは、昼食の時だった。
時折食堂で彼女を見かけることが多々あったが、白河を取り巻く顔触れはいつもバラバラで、先輩と席を共にしていた事すらある。
出来上がり始めたクラスの勢力図の何処にも属さず、黒子や高尾と絡むのは席が近いからです、別に狙ってなどいませんよ、とでも言いたげな様子で、白河は気ままにふらふらとしていた。
でも、やっぱり、考えすぎなのかなぁ。
ただ単にそういう人づきあいの仕方をしているだけ、という可能性もあるのだ。
疑ってかかるのは、やっぱり後味が悪い。
緋那ちゃんの推測を否定するわけでは無いけれど、ううん。
あれから白河を疑うべきか否か、和泉はぐるぐると迷い続けていた。
夕食を終えて洛山寮の自室に戻り、自習をしようと机に向かう。
この寮に所属している以上は、みっともない成績など残せない。運動ができるならまた話は別だが、和泉はその方面は不得手だった。
しかし、シャーペンを動かす手は、教科書と別の問題で逡巡してしまう。
とても集中などできるはずもなく、頭を抱えて机に突っ伏した。
白河さんに近づけば、赤司君を助けられるかもしれない。
白金家が関わっていたり、桃井ちゃんの忠告もあるから、何かがある可能性はとっても高いだろう。
でも、そのために偽物の友達になるのは、なんだか違うような気がする。
頬っぺたにくっつく教科書はひんやりしていた。
中学時代に掛けられた、それよりさらに冷たい言葉を思い出して、和泉は目を閉じる。
そして、幾度となく自分の胸を抉ったそれを、静かに呟いた。
『友達って勝手に思ってたのは、貴方だけでしょ?』