第5章 お祈りはいつも届かない
かくして、俺の高校生活一日目は混乱と共に幕を開けた。
我ながらよく喋るほうだという自覚があるけど、今日は一日、いつも以上に口数が少なかった気がする。
「なんだってこんな……」
入寮式も終わって、未だ荷物の片づけが住んでいない自室に戻るなり、俺はベッドに身を投げ出した。
あれ、これウチのより上等じゃね? とマットレスの柔らかさに感慨を覚える間もなく、部屋の扉がノックされる。たぶん真ちゃんだ。
「はいはーい」
今行きますよー、っと扉を開ければ、予想通りの長身がそこにあった。
自分よりも高い位置にある仏頂面を見上げ、そこで初めて違和感に気が付く。
瞳が、赤い。
そこにいたのは、血のように赤い瞳でこちらを見下ろす緑間真太郎、だった。
「……お前、まさか」
思わず、頬のあたりが引きつる。
俺が見破ったことに気づいたのであろう相手は、ふわりと仏頂面をほどく。
「"久しぶり"だな、高尾」
真ちゃんの顔が、花咲くような、柔和な微笑みを見せた。
普段のつっけんどんな硬さはどこにもない、柔らかな声音。
これで何かしら甘い台詞でも囁いたら、異性だろうが同性だろうが一発で仕留められそうな表情。
平素の緑間真太郎は、当然ながらそんな色香を振りまくような人物ではない。
堅物を絵に描いたような彼が、どうして現在このような空気を醸し出しているのかと言えば、単純に「中身が緑間ではない」からだった。
二重人格とも少し違うのだが、高尾はこの「外見緑間、中身別人」の彼ともそれなりに付き合いはある。
「緑間真太郎」が昏倒するか眠るかしているとき、たまにひょっこり現れるようになった「彼」は、最近になって、その出現の頻度を増していた。
「で、こんな夜中に何しに来たわけ?」
緑間に対するものとはまた違った気安さで、高尾は彼を自室の奥に通した。
「っていうか、久しぶりってほどでもないだろ?」
「そうだったかな」
「そうだよ。三日前も真ちゃんの身体で電話掛けてきたっしょ」
「次の日、真ちゃんが発信履歴見て首傾げてたんだぞ?」と続ける高尾の声音には、暗に「誤魔化すのが大変だった」という苦労がにじみ出ている。
それを正確に読み取った赤目の人物
――ツクモは、「すまなかった」と他人の身体で謝った。