第4章 気になるあの子
「結局なんだったの、あのサル」
生徒が減りつつある教室で、サクサクとスナック菓子を食べながら口火を切ったのは、紫原だった。
「ウチってサルの生徒は採ってないんでしょ? 黒ちんみたいな先祖返りでもないのに、なんであんなちんちくりんがいるワケ」
ちんちくりんとは言わずもがな、地雷原もかくやという教室へ突入し、何食わぬ顔で空気を読めていない発言を連発した結果、一同を大いに白けさせたあの女子生徒のことである。
幼いころから、基本的に猿人を採らない帝光に所属してきたキセキにとって、彼女が二人目の猿人の同期生だった。
「知らねーよ」
「峰ちんには聞いてねーし」
「んだと」
「聞かなくても知らなさそうじゃん」
だらけきった姿勢で、至極どうでもよさげに答えた青峰に突っ込むと、紫原は先ほどから考え込んでいる様子の人物に声を掛けた。
「さっちんはー?」
唐突な呼びかけに、桃井はびくりと肩を跳ねさせる。
「え? なに? どうしたの、ムッくん」
「……んー、やっぱいいや」
そんなところだろうとは思っていたが、やはりぼんやりしていたらしい。緑間に視線をやると、こちらが尋ねる前に答えが返ってきた。
「オレも聞かされていないのだよ」
「アララ」
ブリッジをくいと持ち上げながらの言葉に、紫原はこてんと首を傾げる。
赤司は入院中でそれどころでは無かったので、あれがどうして帝光にいるのか知っているのはそれ以外のキセキと思ったのだが、アテが外れた。
「どうせ裏口入学とかだろ? 大して頭良さそうにも見えなかったし、サルがスポーツで俺らに敵うわけないんだし」
刺々しい口調で言って、緋那が鼻で笑う。
よりにもよって火神と恋人に間違えられたことに、緋那はまだ腹を立てていた。
度々キセキと行動を共にすることが多い緋那だが、キセキ狙いの連中からの、自分に対する風当たりが強いことは自覚していた。おかげで親しい友人と呼べる人間は少ない。
人に媚を売るのも嫌う緋那にとって、学校はいつも戦場だった。
ひょっとしたら、自分とキセキを引きはがそうと、白河の勘違いを言いふらす輩が出てくるかもしれない。
別にキセキと離れても問題はないが、和泉のことを考えると、そうも言ってはいられなかった。
贔屓目なしに見ても、和泉はお人よしすぎる。