第4章 気になるあの子
「っと、ここで道草してる場合じゃない」
腕時計に目を落として、白河が我に返る。
「それじゃ、また今度ね!」
ほら急いだ急いだ、とカガミの背中をせっつきながら、ばたばたと白河は去っていった。
だんだん小さくなっていく二人の姿を見て、和泉の脳裏に何故か「台風一過」という言葉が浮かぶ。
黄瀬が深い溜め息をつきながら脱力した。
「なんか、何もしてないのにどっと疲れたんスけど」
「うん、オレも」
答える高尾の声からも、明るいトーンが消えている。
「二人とも、大丈夫?」
心配の声をかける和泉も、白河の猿人ならではの無遠慮な行動にハラハラさせられたのは同じだった。
誠凛寮から洛山寮に移ることを決めて、本当によかったかもしれない。
もし赤司の申し出を否定していたら、白河とカガミと、同じ屋根の下で暮らすことになるところだった。
猿人の白河が、重種のカガミに対してあの調子では、そのうちどこかでぎくしゃくし始めそうな気がする。
そんな所で暮らす自分を想像してみたが、ストレスで体調を崩している姿しか予想できない。
確か黒子も誠凛寮と言っていたが、彼は平気なのだろうか。
カガミがいなくなるのを待っていたのか、教室から寮へと急ぐ生徒たちを見ながら、そんなことをぼんやりと考えた。
後で、白河と連絡先を交換しようか。
彼女なら、黒子と席も近いし、自己紹介の時も、それなりに親しげに話していたから、彼の近況くらいは教えてもらえそうな気がする。
自分がこれからどうなるかも不安だったが、赤司や黒子の事も、やっぱり心配だ。
「大丈夫だって」
和泉の頭の中を見透かしていたかのようなタイミングで、高尾が明るく答える。
「だからそんな顔すんなよ」
「え?」
そう言われて、和泉は自分の頬にぺたりと触れた。
どうやら、また一人で百面相をしていたらしい。
「そうっスよ。和泉っちは笑ってるほうが可愛いし」
「あ、ありがとう」
同意した黄瀬には、ぽふぽふと頭を撫でられる。
少し照れくさくて、和泉は俯いた。