第4章 気になるあの子
「お、来た来たぁ」
和泉とは対照的に、白河はカガミの登場に笑みを見せる。
憮然とした表情で、カガミは白河の頭のてっぺんからつま先まで、じろじろと値踏みするような視線を向けた。
「ほんと、何なんだよお前」
「あ! 私ったら名乗ってなかったね」
「いや、そういうことじゃ」
「誠凛寮の白河夜船です。ちなみに新入生」
言い切る前に自己紹介に移られ、カガミの眉間に皺が寄る。
自分よりも二回りほど大きい人物に睨まれようが、特に怯むこともないあたり、白河は結構図太いのかもしれないと黄瀬は思った。
そういえば、自分を見ても特に反応しなかったが、こちらの素性には気づいていないのだろうか。
そんなことを考えつつ、和泉を庇うような位置に、さりげなく移動することも忘れない。
「それで、この人たちは友達待ちのクラスメイト」
「……もういいわ」
黄瀬たちを示して真面目に続けた白河に、「通じてねえし」と気が抜けたようにカガミが溜め息をついた。不機嫌を通り越して呆れたらしく、表情から険しさが消えている。
猿人相手に話すのは、だいたいそんなものだよなぁ、と黄瀬も同情した。
白河が心配なようで、自分の後ろからそっとカガミとのやりとりを覗き込んでいた和泉も安堵したらしい。
その気配が背中に伝わる。可愛らしさに黄瀬の口元が緩んだ。
頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが、それはぐっと堪える。
思うとおりにならない表情筋と格闘していた黄瀬たちの方に、不意にカガミが向き直った。
咄嗟に身構えた黄瀬に、カガミが言う。
「ひょっとして、俺らのせいで待ってたのか」
「それは……」
「その、悪かった」
伝えるべきかと言い淀む高尾の様子で察したらしく、カガミは言いにくそうに頭を下げた。
拍子抜けしたところに、白河からの茶々が飛ぶ。
「ていうか、入学早々クラスでイチャつくとか爆死モノだよねぇ」
「イチャついてねーよ! アレ恋人でもなんでもねーから!」
「えー? 嘘だぁ」
目の前で繰り広げられるくだらないやり取りに、黄瀬たちはお互いに顔を見合わせた。
キセキに喧嘩を売るほど不遜な奴。それだけの情報から、てっきり灰崎のような粗野な人物を想像していたのだが、実際とは大いに違っていたようだ。