第4章 気になるあの子
「いやぁ、それにしても」
教室の扉を閉めて、黄瀬たちに向き直った白河は、とても良い笑顔でこう言った。
「このクラス、美男美女ばっかりだね!」
眼福だなぁ、全体的にみんな大きかったけど、と付け加えながら、彼女は制服のポケットからコンパクトミラーを取り出す。
悠然とリップクリームを塗り直し始めた白河を見て、和泉は彼女が猿人なのだと再確認させられた。
自分のように階級の中で暮らしている人間であれば、キセキや緋那と争っていた人物……先ほど白河が「カガミ」と呼んでいたが、そのような重種に、初対面で軽々しく話しかけることは難しい。
彼らをさらりと「ふつうの同級生」として扱った白河の対応は、他の生徒がやりたくても、決してできないものだった。
「どうしたの?」
蓋に雪の結晶が描かれたコンパクトを畳んで、白河が和泉を見つめ返す。
「ううん、何でもないの」
中学生の時、もっと早く赤司くんに声を掛けていたら、忘れられずに済んだのだろうか。
白河のように、躊躇なくとはいかないが、もっと積極的になれていたら。
……考えても仕方ないことではあるけれど。
「ふーん。そっか」
そんな和泉の言葉を額面通りに受け取ったのか、白河は話を適当に流した。
興味が早速別の方向に移ったらしく、今度は黄瀬に笑いかける。
「そういえば皆、こんなところで何してたの?」
出し抜けに質問されて、黄瀬は一瞬返答に詰まった。
猿人の白河に、階級のうんぬんを配慮してタイミングを見計らっていた、などという理由は確実に通じない。
しかしそれに代わる答えが咄嗟に出てくるはずもなく、黄瀬は視線を泳がせる。
「人待ってたんだよ。すげー静かだったから、先生がまだいるんじゃないかなって思ってたんだけどさ」
「オレも似たような感じかな。和泉っちもそうっスよね?」
「うん。黄瀬くんと、このクラスの友達と一緒に帰る所だったの」
その答えに納得したらしく、白河は相槌ともため息とも付かない間抜けな声を漏らした。
「友達と一緒かー、いいなー」
「おい」
白河のぼやきが合図だったかのように、扉が開く。
現れた人影の眼光の鋭さに射すくめられ、目があった和泉は思わず後ずさった。