第4章 気になるあの子
爆弾の処理を引き受けたような心持で、黄瀬は教室の扉の前に立つ。
最近はモデル以外に、仕事でテレビ番組に呼ばれることも増えてきたため、大御所や先輩の楽屋に挨拶に訪れる機会も多くなった。
相手の機嫌が悪いときに楽屋を訪れてしまった、等の苦い経験も幾度か味わい、今では不測の事態に備えて、一度イメトレをしてから楽屋の扉をノックすることにしている。
そんな経験が、まさか学校で活きる羽目になるとは思っていなかったが。
扉一枚隔てた先は教室ではなく、学内屈指の地位にある生徒が気を張っている地雷原だ。
ここに喧嘩っ早い灰崎がいれば、とっくに爆発していたことだろう。
幸いその危険人物も、今日は休みである。
『キセキがこの状況を面白がっている』という高尾の予想は、正確には『赤司が放任している』と思われたが、薄々思いあたる箇所があったので信用しよう。
謎の重種は不明なところが多いので、そちらの対処を考えるよりも、どうにかして緋那を宥めたほうが、場を収めるには早そうだ。
小原緋那といえば、重種ではないものの、文武両道、男装という目立つ容姿、他にも色んな意味で名前の知れた生徒だった。
緑間とは別の方向性で、ややプライドが高い変人なのが玉に瑕だったが、そこさえ目をつぶれば、認めた人物はとことん大事にする真っ直ぐな子、とは和泉の弁である。
正直、黄瀬から見て、緋那が認めているのは和泉くらいしかいないように思えたが、今はそれを言っても仕方がない。
だが和泉が『真っ直ぐ』と評するなら、緋那は悪人ではないのだろう。むしろ不器用すぎて空回りしているような感じか。
一時的な対処ではあるが、頭に血が上っているであろう緋那を冷静にするため、黄瀬は自分が怒鳴られようと方針を決めた。
これで謎の重種が謝りでもしてくれれば、事態はあっさり解決しそうなんスけどね。
内心でそうぼやきながら、黄瀬は一つため息をつく。
そして地雷原の入り口をノックしようとして、
「あれぇ、まだ終わってない感じー?」
傍らから掛かった声に、腕の動きを止めた。
振り向けば、高尾と和泉の他に、なぜか白河が増えている。
「えへへ、さっきぶりー」
こちらの緊張も知らず、白河はふにゃっと笑った。