第4章 気になるあの子
重種、中間種、軽種の順に低くなっていく階級において、キセキの世代と呼ばれるメンバーは、全員が「重種」と呼ばれるトップに位置している。
そして、中間種の黄瀬にとっては腹立たしいことに、灰崎祥吾は重種だった。
階級が上位のものは、その気になりさえすれば下位の者の意志を無視して、操り人形にできる。
サル相手ともなれば、強制的に意識を失わせたり、記憶を覗くことも可能だ。
それ以外にも稀有な能力を多々持ち合わせる重種は、代償としてか、出生率が極端に低い。
重種の血筋を後世に残すために、ありとあらゆる手を尽くせる人間というのも限られているため、自然と重種のいる家は富裕層かつ、代々続く名家に絞られていった。
俗な言い方をすれば『レアもの』であるが故に尊敬されているキセキだったが、それ以上に『逆らうとどうなるか解らない』という本能的な畏れも抱かれている。
キセキの中でも、その理由で最も恐れられているであろう灰崎は、しかし周囲の不安に反して、誰かを階級の力で屈服させることはなかった。
灰崎とは幼い頃から水と油の仲である黄瀬ですら、未だに彼が本気で怒ったことを、それこそ能力を使ってまでこちらを叩きのめそうとした姿を、目にした試しが無い。
その余裕がまた気に食わず、黄瀬は度々灰崎の煽りに乗ってしまう。
悪循環だ。
不毛でみっともないと頭でわかっていても、灰崎にだけは、珍しがられ、その上遊ばれているなんて、どうしても認めたくなかった。
「先輩待たせるのもマズいし、やっぱりちょっと様子見て来てもいいスか?」
そんな様子をおくびにも出さず、黄瀬は努めて軽く提案する。
「それじゃ、私もついてっていい?」
「危ないかもしれないんで、和泉っちは待ってて」
たった今、中間種の緋那と睨み合っている生徒は、キセキと同じく重種だったはずだ。
日本に住んでいて、サルではないなら、『キセキ』を敵に回すことがどういうことか、知らないわけでは無いだろう。
それを分かったうえで、入学初日からこんな冒険をやらかすような人間の、しかも強力な重種の元に和泉を引き出すのは、流石に気乗りしなかった。
教室の戸から廊下に漏れ出ている殺気は緋那のもので、今のところ例の重種は大人しくしているようだが、相手の前情報が少ない分、どうなるともわからない。