第4章 気になるあの子
彼は黄瀬と和泉に気づくと、困ったように眉を下げて、静かに、というしぐさをする。
「なんか揉めてるみたい」
「え、初日からいきなりスか」
黄瀬の驚きに、高尾は返事の代わりにやれやれと肩を竦めた。
和泉も教室の扉へと視線を流したが、扉にはめられた擦りガラスの向こうで、ぼんやり何かが動く様子しか伺うことはできない。
先ほどの教室では積極的にクラスメイトを取りまとめていた高尾も、キセキを初めとする、ヒエラルキー上位の生徒ばかりのクラスには、嘴を突っ込む気はないようだ。
「ほーんと、困っちゃったよねぇ」
事の顛末を音声のみ知っていた高尾によれば、どうやら外部生でキセキに並ぶ階級の生徒がいるらしく、その生徒が何か無礼をやらかしたらしい。
そこに緋那が持ち前の負けん気で噛み付き、今やすっかりクラスは緊張状態、とのことだった。
例の外部生は外部生で最高階級、緋那は緋那でキセキの世代と付き合いのある生徒だ。
どちらの味方についても、後々ややこしくなると見た他の生徒は、傍観を決め込んでいた。
「初日からこっちは修羅場だし、黒子は戻ってきたし、猿人なんてイレギュラーまでいるし、今年は絶対荒れるわぁ」
小声で言いながら忍び笑いを漏らす高尾に憂いている様子はなく、むしろ全力で面白がっているように見える。
だが和泉が引っ掛かりを覚えたのは、そちらではなかった。
「え、高尾君って外部生だよね?」
「あぁうん、そうだぜ。でも中等部で何があったかとかは、だいたい緑間から聞いて知ってっから」
「そうなんだ……」
じゃあ、赤司君のことも覚えていてくれるだろうか。
少し考えこむ和泉をよそに、黄瀬がさらりと疑問をこぼす。
「てか、赤司っち達このクラスじゃないスか。さっさと仲裁とかして、出てくるなりすればいいのに」
「ま、キセキともなると身内とだって喧嘩にならないからなー」
絶対的な階級のせいで、キセキに表立って楯突く者は親族でも皆無に等しい。
案外この状況楽しんでたりして、という高尾の呟きに、黄瀬は苦虫を噛み潰したような表情になった。
……ひょっとして、オレもショーゴ君に遊ばれてるとか?
いやそれはない。ないはずだと、一瞬浮かんだ嫌な考えを頭から振り払う。
そんな事、黄瀬のプライドが許さなかった。