第4章 気になるあの子
誰が何を言っているのか、いまいち頭に入ってこない。
その代わりに、黒子に聞きたいことばかりが、沢山浮かんでは消えていく。
いよいよ自分の番が近くなって、和泉はようやく自己紹介の内容を考え始めてみたものの、結局まとまらないうちに、教師に名前を呼ばれてしまった。
何人か知り合いもいるとはいえ、それでもやっぱり緊張はする。
起立すれば自然と向けられる注目にたじろいで、和泉は助けを求めるような目で黄瀬を見た。
がんばって。
黄瀬から口パクのメッセージ付きのサムズアップを貰って、和泉は小刻みにこくこくと頷く。
胸に手を当てて深呼吸すると、第一印象が大事! と自分に言い聞かせ、和泉はクラスメイトに向かい微笑んだ。
「中等部から来ました、洛山寮の皆元和泉です!」
元気に言おうとして、こころなしか早口になる。教室のどこを見ても、誰かしらと目が合った。中には顔が赤くしてこちらを凝視する人もいて、何か変なことを言ってしまったろうかと不安になる。
加速する緊張を振り払うように、勢いよく和泉は頭を下げ、
「これから一年間、よろしくおねがいしましゅっ!」
盛大に台詞を噛んだ。
……沈黙って耳に痛いのね、と礼の姿勢のままで和泉は思う。
顔に熱が集中するのがわかって、どうしても頭が上げられない。泣きそうだ。
「……かわいい」
如何ともしがたい空気になってしまった教室で、誰かの言葉が、はっきりと聞こえた。
予想外の言葉に、和泉は涙目のまま、思わず顔を上げる。
「かわいいよな?」
「うん、今のは可愛かった」
最初の呟きに触発されたように、クラスメイトがどよめきだす。
今一つ状況を飲み込めずにポカンとする和泉の制服をくいっと軽く引っ張ると、黄瀬は振り向いた和泉にウィンクした。
「大成功っスね」
そうなの? と思う間もなく、拍手が和泉に雨あられと降り注ぐ。
照れくさくてもじもじしながら着席すると、また誰かが「可愛いなぁ……」とため息混じりに呟いた。
黄瀬が冷たい目でそちらをじろりと睨んだことに、和泉はついに気がつかなかった。