第4章 気になるあの子
「ほんとに?」
「もちろん。オレ、期待には応える男っスよ?」
「ありがとう!」
花がほころんだような和泉の笑顔に、思わずこちらの頬も緩む。
いつから好きだとか、そんな事は大した問題じゃないか、と黄瀬は思い直した。
「んじゃ、自己紹介すんぞー」
教師のやる気のなさそうな声で、黄瀬と和泉も姿勢を正し、前を向く。
窓際の列の前から後ろへ、隣に移って前へと進むクラスの自己紹介だが、緊張の度合いだけで、内部進学組と外部入学組の区別は付いた。
外部生は、憧れの学校に上がれたからなのか、皆一様に肩に力が入っている。
黄瀬は解りやすいなあ、と眺めていたのだが、数人の紹介が済んだところで、例外が現れた。
「……えーっと、誠凛寮の、白河夜船って言います」
白紙のプリントの事で、ある意味注目を集めていたにも関わらず、緊張と無縁のノンビリした口調で彼女は名乗った。
長時間聞いていたら、確実に夢の世界に旅立てそうな声と喋り方だな、とは黄瀬の感想だ。
しかし当の本人はというと、顎に人差し指を当てたまま何かを考えているようで、次の一言を発そうとしない。
「早くしろー」と教師に急かされて、そこでようやく言葉を継いだ。
「あ、ごめんなさい。何言おうとしてたのか忘れちゃったけど、よろしくお願いします」
なんだそりゃ。
結局、寮と名前しか分からずじまいな自己紹介に、頬杖から黄瀬の頭がずり落ちる。
ぶっふぁ、と盛大に誰かが吹き出したのを皮切りに、またもやクラスに笑声が溢れた。
ある意味『つかみ』はバッチリだったようで、着席した白河に、早速隣の席の男子生徒が話しかけているのが目に入る。
白河が窓際の列の一番後ろだから、次はその男子が自己紹介をするはずなのだが、彼は白河と二言三言交わした後に、腰から上で白河の後ろへと振り向いてしまった。
そのまま立ち上がる様子は無く、なぜか白河もそれに倣う。
……ん、後ろ?
「次は……高尾和成ー。どこだー」
黄瀬に芽生えた疑問を、教師のやや焦れたような声が潰した。
白河の隣の席で、後ろを振り向いていた男子生徒が、慌てて前に向き直る。
「え、オレの番?」
「お前だよ、高尾」
高尾と呼ばれた生徒は自分の顔を指さして、呆れたように教師はため息をついた。