第4章 気になるあの子
少し考えて、教師が答えた。
「そんな重要な手紙でもないからな。後で捨てておいても良いぞ」
「……わかりました」
サルのお前にとってはそんなに重要でもない、という教師の含みに気づいた様子も無く、白河はきょとんとしている。
切れ長の少しキツい目つきが、表情のせいか幼い印象になっていた。
声もややおっとりした響きを帯びていて、全体的に、他人に害意を向けるような人物には思えない。
黄瀬は和泉が白河を案じている理由が、分かった気がした。
すっげえイジメられそうなタイプだ、コイツ。
最下級の猿人、しかもショボいとくれば、日頃から上の階級に良いようにされている下級の生徒は、さらに弱い立場の白河に、ストレスの矛先を向けるだろう。
たとえ差別的なことを言ったり、見せたりしたところで、サルという一点のみをネタにすれば、どんな事が起ころうと白河は気付かない。
いや、気付けないのだ。
今だって、こんな派手なプリントが、彼女には白紙に見えているようだし、笑い声にも反応しなかった。
そうして本人は何も知らないまま、密かに蔑まれて生活することになる。
見た目が人間な理由は分からないが、白河がサルであることは、黄瀬の中では確定事項になった。
でも、別に心配するほどのことだろうか。
サルはサルの子孫しか残せない劣等種なわけだし、馬鹿にされても仕方ない気がする。
正直なところ、それが黄瀬の、白河に対する感想である。
そう思っているのは黄瀬だけではなく、むしろ猿人以外の間では共通の認識であり、黄瀬の考えも常識的な反応と言えた。
世界の『こちら側』の存在にも気付かずに、我が物顔でふんぞり返っているから、『こちら側』の人間からしたら、猿人は酷く滑稽に思えるのだ。
「和泉っち」
黄瀬は小声で、しかしニッコリ和泉に笑いかけた。
「オレが周りにビシッと言っとくんで、心配しなくてもヘーキっスよ。そしたらきっと、あの子もとやかく言われないと思うし」
だからあんな子より、オレのことを見て欲しいなーっという本音は隠して、黄瀬は和泉の言葉を待った。
そういえばオレ、いつから和泉っちの事好きになってたんだろう。