第4章 気になるあの子
式が無事に終わり、教室。
「あの子、パッと見じゃオレらと同類っぽいんスけどね」
担任の教師の話の合間、黄瀬はこそっと隣の席から和泉に耳打ちした。
和泉と同じクラスになれたはいいものの、当の和泉はというと、さっきから心ここにあらず、といった状態だったのだ。
原因はすぐに知れた。
窓際の席に座る、黒い髪の女子生徒。
茶色っぽいネクタイをしているから、たぶん『猿人』だ。
ただ、本当に『猿人』なのか、黄瀬には判断がつかないでいた。
黄瀬が知っている『猿人』の見た目は、動物の猿がそのまま服を着て歩いているというものだ。
猿と一口に括っても、ニホンザルやらマンドリルなど、種類は様々だったが、いずれにせよ人間の姿をしていないことだけは確かだった。
『猿人』の間で話題の美人モデルが、黄瀬にはただのチンパンジーにしか見えないことなんて、ザラにある。
だが、例の女子生徒はと言うと、どこからどう見ても人間の女子高生だった。
今さっき配られたばかりの、カラー印刷のプリントを、難しい顔でしきりにひっくり返している。
「でもやっぱり、猿人なんじゃないかな」
和泉の返答に「なんで?」とは聞かず、黄瀬は自分に配られたプリントに目を落とした。
《高校生になった皆様へ、そろそろ繁殖の事を考える時期ではないですか?》という見出しの後に、パートナー選びの基本やら何やら、猿人との違いやら、黄瀬にとっては今更な内容が延々と書かれていて、思わずげんなりする。
オレもそろそろ、色々考えないといけないんスかね。
キセキの面々が、すでに中学時代から種付けに駆り出されているのは、黄瀬も知っている。
しかし黄瀬自身は遊び相手と寝たくらいで、政治の絡むような相手と寝たことはなかった。
頬杖をついて、どこか他人事のように、プリントの端をつまむ。
その時だ。
「あの、先生」
教師の話が途切れた合間を狙ったのか、例の女子が控えめに挙手していた。
「どうしたー、白河」
「このプリント、白紙なんですけど……」
クラス中の注目を浴びながら、教師に白河と呼ばれた女子生徒は、誰の目にもカラフルなプリントを、遠慮がちに示す。
さざ波のような忍び笑いが、教室中から静かに沸いた。
和泉だけが、ほらね、という表情で黄瀬を見つめる。