第3章 水泡に口付ける
ウサギくん(仮)に教わった抜け道は、彼がとっておきと言うだけあって、ひっそりした細い道だった。
道の入り口にはアーチ状の支柱が立っていて、バラの蔦が絡まっている。奥に続く道の両脇にも、何かしらの花の鉢植えなどが飾られている。
ひと一人がやっと通れる程の道幅のそこを、和泉はどこかの寮の庭の入り口だと思って、すっかり見落としていたのだった。
「道なりに行くと良い。校舎の側に出るはずだ」
「ありがとうございます! それじゃ……」
「少し待ってくれないか。一つ忠告がある」
勢いよく頭を下げ、走りだそうとした和泉を引き留めて、ウサギくん(仮)は自分の胸元を指差した。
「基本的に、アクセサリー類は校則で禁止されているはずだ」
その言葉に、和泉は驚いて制服の胸元を抑える。
実はこっそり、赤司君に貰ったペンダントを着けて来ていたのだ。
どうして、と和泉が聞く前に、疑問を察したのか、彼から答えが返ってきた。
「頭を下げた時にチェーンが見えたものだから、つい」
気を付けたほうがいい、と彼は笑う。
「大事なものなら、うまく隠しておくことをお勧めするよ」
――他の人にとっても、貴重な物かもしれないからね。