第2章 カウンターパートの赤いやつ
そうして、今に至る。
あの実渕先輩に「話があるのだけど」と呼ばれた時は何事かと思った。
実渕先輩は赤司君の側仕えのお家の人だ。
赤司君と私では、それはもう比較にならないくらいの身分違いだってことも、そんな自分がこんな風にお見舞いに来られる方がおかしいってことも、きちんと解ってる。
実渕先輩とは余り面識もないから、多分話があるとすれば赤司君のこと以外ないはずだ。
だから、先輩に連れられるまま、緋那ちゃんと一緒に喫茶店に場所を移した時も、「あまり征ちゃんに近づかないでほしいの」と言われるような、そういう展開を覚悟していた。
そのはずだったのに。
「これを、私に……ですか?」
「ええ、征ちゃんに頼まれたの」
信じられない思いで、手渡された箱の中身に視線を落とす。
照明の柔らかな光を弾いて、きらきらと輝くペンダント。
シンプルで小ぶりのトップには、先刻まで病室で目にしていた、あの赤と同じ色の宝石が収まっている。
箱に添えられたメッセージカードには、一目で赤司君のものだとわかる、達筆な字でこう記されていた。
『俺の魂を君に預ける』
ということは、つまり。
「これが和泉への返答、ということですか」
私が聞くより先に、隣の緋那ちゃんが疑問を口にしていた。
「判らないわ。私は『届けてほしい』としか頼まれていないもの」
ごめんなさいね、と微笑む先輩は、それでもどこか嬉しそうだった。
「でもそのプレゼント、本当はパーティーの時に渡したかったみたい」
こうなることがわかってたのかしら。
そう呟いて、先輩は長い睫毛を伏せる。
胸がいっぱいになって、何を言えばいいのかわからなくて、私はただ先輩の顔ばかり眺めていた。
何もかもが現実感を無くしていく中で、握りしめたペンダントの感触だけが、私と世界を繋ぎ止めている。
そんな気がした。