第2章 Lupine あなたは私の安らぎ
「好きなのに、前からずっと!」
もう泣いてはいないが今までどんなアプローチをしても靡かない鈍感女の、初めての俺への気持ちをきかせてくれた。
夢、じゃねえよな?
確かめたくてカズサを抱きしめる。
背中に回った両手に期待が溢れる。
「お前は今まで男に傷つけられてきた、それで少し助けた俺に一時の感情にす」
唇に自分じゃない柔らかな感触がする。視界いっぱいにカズサの顔がある。
「違う、違います。その前からなのに?見てるだけでいいと思っていたのに、それなのに!」
おい。もしかしたら鈍感なのは俺か?
「嫌、嫌です。もう離れたくない!」
俺は舞い上がるほど嬉しいが、どうしても弱った時に手を差し伸べた男に一時、絆されているんじゃないか?と思ってしまう。
もう一度、落ち着いてからきちんと話す必要がある。
せっかく平穏に暮らせるカズサを勘違いで後々苦しめたくない。
それに同居してから早くも一年は経っている。
恋愛感情と情を取り違えてはいけない。
「カズサ、すぐ向こうに行く訳じゃない。お互い自分と向かい合ってからちゃんと話そう」
カズサは子供のように首を横に振って主張をしているが、これは大事なことだ。
もしカズサの気持ちが俺にあるなら…きっと俺は手放せない。
すがるカズサを引き剥がして複雑な夜をなんとか越えた。
泣きながら寝室に篭ったカズサに心が痛むが、俺は情けないがどうしたらいいか、途方にくれている。
女性の心理は男の俺にはわからない。
俺にも助けが必要だ。
PCに向かい、短いメッセージを送ると三人から直ぐにレスポンスがあり、ホッとした。
まだ、カズサに顔を合わせられなくて男らしくないのは重々承知で翌日はカズサと時間をずらして出勤した。
俺の海外赴任を知っているハンジ、エルヴィン、初耳だろうペトラと退社後、静かで清潔な俺のお気に入りの店で落ち合う手筈だ。
俺より遅く出社したカズサは誰が見ても目を腫らしているし、なにより生気がない。
いつもならどうした?と言うところだが、なるべく視界に入れないように努める。
定時が過ぎカズサはまだ仕事をしているのが気にかかるが、声をかけずにそのまま会社から出て待ち合わせ場所に向かった。