第2章 Lupine あなたは私の安らぎ
「常務の息子だろうがおもねる必要はないだろ」
「それがね、ゼインって上司にいろいろと便宜を図るようにして、コネを最大限に使っているわけさ」
「胸くそ悪い」
「社内でおかしな行動をとるなら可能性一番はこの人だろう」
「警察に相談しとくよう言っておく」
「まぁ、それにはどうしてもカズサの証言が必要になるけどさ、他にも手助けできることは全面的に私も動くからさ」
そろそろ戻るかと立ち上がる俺と反対にハンジは立ち上がらない。
「……本当はもっと簡単な方法があるんだ」
「は?なんだそりゃ?今まで長々と話してたのは何だってんだ」
早く戻りたいのにハンジはふざけたことを抜かす。
「ゼインが付きまとい行為をしていた証拠はほぼない。精々事情聞かれるくらいだ。」
「それでも何もしないよりはマシだろうが」
「ゼインでも別人だったとしてもストーカーを捕まえられる」
もう一度座り直して早く話せと促す。
「あなたの家でカズサの家の鍵とか解約とか話したけどさ。あれはあくまでカズサをできるだけ危険に晒さない前提だ」
なにを当たり前なこと言ってんだ、こいつは。
「身の安全が第一なのはわかってる。でもそれじゃ解決は難しい」
「さっきと全く言い分が違うじゃねぇか?」
「違うのはわかってる。落ち着いて聞いてくれよ?」
「だからなんだ?」
なんでもカラカラと言うハンジが言い淀む。こいつの嫌な提案のサインだ。
「カズサを自宅に戻らせるんだ」
「あ”あ? ふざけるんな」
「だから帰宅させるんだ。そうすれば、カズサの前にストーカーは現れる。そこを確保して突き出す」
「これ以上ないくらいにカズサを危険に晒して 、か」
「あぁ、そうだよ。身の危険は承知の上での行動になる。だから言いたくはなかったんだ。今は警察の結果を待って加害者が一人なのか?複数なのか。カズサが…もし、それでもと言うならやるだけの価値はある」
「………やらせねえよ」
「あなたが決めることじゃない。一生怯えて暮らすか、反撃するか、カズサがどうしたいか、だ」
「付き合ってられねぇ」
バンッと飲み物代はテーブルに叩きつけ、ハンジを置いて自宅マンションへ戻った。