第2章 Lupine あなたは私の安らぎ
「辛かったな」
まるで子供にするようにくしゃりと頭を撫でられる。
普段なら髪が乱れるからと苦情を言うけれど今はすごく安心する。
みっともなく泣いて落ち着いてきた頃、課長は離れていく。
それが寂しいなんて口にしてはいけない。
「すいません、みっともないところを。優しさが身に染みて安心したら、あ、課長のスーツ!!」
いつもピシッとしているスーツはわたしの涙やら鼻水ですっかり汚れてしまっている。
「クリーニング出せばいいだけだ」
「すみません」俯いてしまうと課長の手が顔をあげさせる。
「いつも、お前はすいませんと条件反射のように言うが、さっきも言ったように俺は迷惑だとは思っていない。気にする必要はない。とは言っても気にするだろうから、クリーニング代は払ってくれ」
こんな些細なことでは返しきれない程なんだけど、素直に「はい」と返事をする。
「よし、じゃ風呂入ってこい。明日からのことも話しておきたい」
「いえ、課長からお風呂に」
「いいから、先に入れ」
好意にまたしても甘えて先に入ることにし、部屋着などを用意し、バスルームに向かった。
※※※
「ハンジ、もう家か?」
「うん、オルオが車で送ってくれたからね」
「手短に話すが、社内であいつに付きまとっているのがいると言ってたな。そいつについて、俺の個人PCに送ってくれ。それから、不審な動きがあったらすぐに伝えてほしい」
「それは別に構わないよ。寧ろそうするだろうな。と思ってたし。でもそうしてどうするの?その後は?」
「まだ詰めてはいねぇが、少なくともエルヴィンには報告する」
「本人には?」
「はっきりするまでは言わないつもりだ。これ以上の負担は掛けたくねぇ」
「わかった」
「じゃ、頼む。そろそろあいつが風呂から出てくる。また連絡する」
「お風呂上がりにつられて襲うなよ」
ケラケラ笑ってハンジとの会話を締めた。
「お風呂ありがとうございます」
「悪いな、明日にはシャンプーやら用意する」
「自分でそれくらい用意しますよ」
「馬鹿か。1人は危ねぇだろうが、嫌だろうがついて行く」
カズサの眉が八の字になるが、引くつもりはない。
こいつの身の安全が最優先事項だ。