第2章 Lupine あなたは私の安らぎ
やってしまった…これで何度目だろ。先輩方にも”いつもの事だから””あと少しですから”と半ば無理矢理に退社してもらって仕事してる時に限って見つかってしまう。今日に至っては出張返りで疲れてる課長に手伝っていただくという失態。
(謝らなきゃ。。)迷惑をかけるかもしれない人の顔を浮かべていると課長から声がかかった。
「終わったか?」
後ろに立っている課長に気づかずに小さな悲鳴をあげてしまった。
「お、終わりました。ありがとうございます!!」
「素直に礼が言えるのは良い事だが、何度も驚かれると本気で俺でも傷つくぞ」
「あっ、すみません!」
クッと喉で笑いながら「冗談だ」と言ってデスクに置かれたカフェオレの缶をすっと差し出す。
「飲め、疲れた時は糖分なんだろ?」
有難くプルタブに爪を立てると、サッと取り上げられる。
怪訝に課長を見ると「せっかくのネイルが痛むだろ」と代わりに開けてくれる。
プシッと音がして手渡された缶を受取りながら「頂きます」と1口飲む。
自分の分のミルクティーを開けてゴクリと課長の喉仏が上下する。
(人気があるの当たり前だよね)
PCをシャットダウンしてもう1口と運ぶと椅子を隣にして座る課長がこちらを見ている。
「お疲れ。お前の頑張りで週明けの資料の心配は無くなったな」
「いえ、その…ありがとうございます」
「安心したら腹が減った。どうせなら付き合え」
はい?聞き間違え?きっと顔に出てしまっていたんだろう。
「だから、飯に付き合え。そんな顔されると傷つくだろうが」
「いえ、もう遅いですし、電車ありますし…」
「いいから、カズサも食ってねえだろ、俺もだ」
あれよあれよという間に飲み干した缶を片付け、帰り支度を急かされ、会社の外に居た。
※※※
週末の賑やかな居酒屋で向かい合ってメニューを見ているが現実感がなくて選べない。
その間にも課長があれこれと飲み物、食べ物やツマミを注文している。
「カズサ、適当に注文したがお前も好きなもん注文しろよ」
「いえいえ、充分です!」
「まぁ、いい」
ビールのジョッキをあわせて一息つく。
「本当に今日はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げると「もうわかったから頭あげろ」といつもより柔らかい声音で「まあ、説教はするがな」と怖い話がついてきた。
