第1章 ”さよなら”
どうして今になって寝た子を起こすような真似をするの?
やっと。やっと誰の手も借りずにやっていけそうな気がしたのに。あの空港でのぐちゃぐちゃな感情がこみ上げてくる。
自分を守るだけで精一杯だったあの頃に引き戻される。
パチン!!
リヴァイの顔が勢いよく左に振れる。すぐに正面に顔を戻すと
「今までの気持ちとか全部吐き出して欲しい。殴っても蹴っても何したってかまわねえ。全部俺にぶつけて欲しい」
涙腺が決壊しそうだった。悔しかった事、不安で眠れない日々を過ごした事、感情を殺そうと無理をしてたこと。
信じたかった事。
意識してしまえば、もう駄目だった。取り繕うのも我慢するのもなにもかもが剥がれ落ちていく。
「信じてたのに、不安だった、確かめられずに毎日が怖かった。リヴァイが分からなくなった。全部!全部!!もういや。どうして思い出させるの?やっとなんでもないって終わったことでありふれた若いころの恋だって忘れられると思ったのに!!!!」
押さえつけていた激情が迸るように爆発する。
流れる水分はなくなり、胸にはじくじくといつまでも治らない傷の痛みと怒りが湧き出てくる。
決してうつむくことなく正面からリヴァイは受け止める。
「今、今更こんな話ししてどうしたいのよ!!詰られてすっきりしたい?もう私を利用しないで!苦しめないでよっ!!」
リヴァイから離れようと駆け出しそうになる体がつんのめった。
掴まれた腕が引っ張られてリヴァイの胸のなかに包まれる。押し返してもリヴァイの力に敵わずにジタバタするばかり。
「悪い。ずっと傷つけてすまない」
知らない。こんなリヴァイは知らない。
弱弱しく震えるリヴァイなんて私は知らない。
暴れる私を離れないように、でもしっかりと抱きしめるリヴァイ。
泣きたくない。泣きたくないのに止められない。
「ほ、んとだよ。謝る、、なら!」
私を胸に抱き止めながら謝り続けるリヴァイ。
※※※
泣き止んで息もようやく整うとそっとリヴァイから離れる。
視線はもう逸らせない。
「…カズサ、、許してもらいたいとか、ヨリを戻したいとか、そんなのは考えても思ってもいなかった。勝手なことだがちゃんと謝罪したかったんだ。ついさっきまでは…」
怖い。次は何を言い出すの?
一言一言が私の内側に浸み込んでいく。