第1章 ”さよなら”
ざわざわと風が鳴る。
言わないで、もう。これ以上は、もう、いいから。
挑むような瞳でリヴァイは続ける。この瞳は知ってる。
「俺はずっと目を反らして生きてきた。どうしたらいいか、わからなかった。だから謝罪なんて自己満足で言ってもカズサを苦しめるだけだとずっとそう思って卑怯だがお前の視界に入らないようにするくらいしかできなかった。」
「も、いいよ。わかったから。」
「待て、最後まで言わせろ。俺はお前を傷つけてほっといて避け続けたクソ野郎だ。言い訳の余地はない。でも」
言い澱むリヴァイは苦しそうな顔で言葉を切る。
じっとりと汗が背中を伝う。
お互いの息づかいが聞こえそうな空気が流れる。
「俺は今日お前に会うのが怖くて、反面楽しみでもあった。そして今、目の前にお前がいる。もう後悔はしたくねぇ。」
思わず耳を両手でふさぐとリヴァイは優しく耳から剥す。
「聞けよ。情けねえが、お前の姿を病棟まで見に行った。お前が他の男に言い寄られてるのを見て焦った。そいつのほうがカズサを幸せにできるかもしれない、そう思った」
「それでいいじゃない」
「どんなに言い聞かせてもカズサが他の男の隣で笑っているのを想像するだけで胸くそ悪くなる。どうにかしてもう一度お前と一緒にいたい」
「私、他に好きな人がいるから」
咄嗟にいない人をでっち上げる。リヴァイの顔が一瞬険しくなる。
「誰だ?」
「リヴァイには関係ない」
「そうだな」
「だから無理」
「だったら俺をもう一度見てくれるようにするだけだ」
「なに言ってんの。馬鹿じゃないの」
「ああ。馬鹿だな。それでも、だ。」
「話しにならない。」
断ってもリヴァイは引かない。
「俺は決めた。他に好きな奴がいてもカズサに嫌われていても諦める気はない」
「身勝手だよ」
「その通りだ。反論できねえ」
こんなリヴァイは初めて見る。
「ただ俺がお前の傍にいたいんだ。だからそうだな。埃程度でもチャンスがあるなら・・・・この手を取ってくれ」
強い光を湛えた瞳は私を捉えて離さない。私だって彼を忘れてない。忘れた振りだけ。
差し出された手を見つめる。
(無謀なのは誰よりも知っている
頼む。この手を…)