第1章 ”さよなら”
「どういう意味だ」
「過去の恋は時が過ぎると美化された思い出になりやすいが。だがお前もカズサもそうじゃない」
「カズサは思い出したくもないだろうよ」
「そうかもしれないが、俺やハンジはそう思えない。カズサもお前もずっと進めてない」
「そういう確証でもあんのか?」
ハハッと面白そうに笑いながら、そんなものあるはずないだろう?と返すエルヴィンに他人事だと思いやがってと腹が立っていると、せっかく同じ職場なんだ、食事でも誘って話し合えばいい。とハードルの高いことをにっこりしながら提案する。
「きっとお前の悩みもカズサと向き合えば気持ちも昇華して解決するさ」
やけに自信満々で陽気になってきたエルヴィンと終電間近まで飲んで少しは気分が晴れた気になった。
※※※
エルヴィンとの飲みから数日後、連絡があり、日時、集合場所もおおよそ決まったらしい。
参加するなら今のうちに大量の書類だけでも片付けたい。
何日か仕事を詰め込み、その甲斐あって時間は確保できそうだ。
行く前は憂鬱でしかなかったが、今は柄にもなく楽しみにしている自分に笑ってしまう。
集まる時期に合わせてイベントごと(秋祭りだとか)も行くらしい。
それと今までの行動で少しだけ変化したのは会えるかは別としてカズサがいるフロアに立ち寄るようになった。
実際に会えたらどうしたらいいかわからんが足を運んでいる。
※※※
「サフィール先生!」
ピクっとカズサを呼ぶ声の主を探す。
「今からお昼ですか?ちょうど僕も休憩なんでよかったらご一緒させて下さい」
丁度良い事にカズサからは死角になって俺は見えていない。
カズサはあの頃とは違う笑顔で男に微笑んでいる。
ドクンドクン、自分の鼓動が早い。
断ったのかカズサは一人で行ってしまった。
男は白衣のポケットに両手を突っ込んだところで俺に気づいて声をかけてきた。
「アッカーマン先生ですよね?内科のレーンです。」
差し出された手を握り返す。
「サフィール先生と今日こそはお話したかったんですが断られてしまいました」
「カズサ…サフィール先生と話したい?」
「僕はそうなんですが今のところ、いつも振られてます」
その言葉にホッとした自分がいた。