第1章 ”さよなら”
「カズサが気に病む必要がどこにある」
「さあな、俺はカズサじゃないからな」
戸惑うだけの話をしといて肝心なとこは濁す。
エルヴィンはそういうやつだ。
「次の集まりはいつの予定だ」
「まだ調整中だがうまくいけば盆休み辺りだ」
大して飲んでないのに鼓動が早くなった気がする。
「今から間に合うかわからんが俺も頭数に入れといてくれ」
「ふ、ハンジが大喜びするな」
「まだ決定じゃない、あと煩いからハンジには言うな」
「ああ、わかった。集まる日については後日連絡しよう。それでだ。結局リヴァイ、お前の問題はなんだ?」
この流れで昔話しをして解散にしようと目論んでたが、引き戻された。
「…女を抱いて満足してるのにあいつの名を言ってることだ」
「満足してるのは欲だけだろう?」
「あいつと別れて何年経ってると思ってんだ。男があいつを放っておくはずねえし、なんなら結婚しててもおかしくはないだろ」
自分で言っておきながら想像すると胸糞悪い。イメージに過ぎないがカズサとのことは箱に入れて厳重に鎖で巻いて胸の奥に沈めたのに。
「思うんだが男女間のことは当人達にしかわからない。しかし別れるならそれなりの儀式が必要だ」
「なんだ?おかしな宗教にでも捕まったか?」
「茶化すな」
真剣なエルヴィンに気圧される。
「お前達は気持ちを持って傍にいたんだろう。なら、きちんとお互い向かい合うべきだった。どんな結果になったとしてもな。」
それは当時の俺も感じていた。そしてできなかった。
黙っているとエルヴィンは話を続けた。
「付き合う過程も付き合ってからもお互いを尊重し合う。そして何かしらの理由で別れがきたなら、相手と過ごした時間が大切だったなら…別れも大事にすべきだ。」
「俺達にはそれがなかった、と?」
「俺からするとそうだな。別れについてはお前たちは間違ってたんじゃないか。話し合うこともせず、納得もせず、ただ臆病に時間をやり過ごして終わらせた。」
「その通りだな。俺たちは避けることで精一杯だった。だが今更、昔の事を蒸し返してどうしろってんだ」
責めるつもりはないだろうがエルヴィンの言葉は一言一言、俺を突き刺す。痛みで語気も荒くなっていく俺をエルヴィンはジッと見つめた。
「今更でもいいんだよ、リヴァイ。遅すぎることはないさ」