第1章 ”さよなら”
あっという間の留学が終わり、到着口からキャリーをゴロゴロしながら、まずは実家へ戻った。
突然の留学に心配をかけてしまった両親は帰宅を喜び、来週から大学に行くことにした。その旨予め申し出ていたしハンジさんにも伝えていた。
目下、急ぐのは探して仮契約した部屋に最低限の家電などの搬入。
それが終わるとどっと疲れがきた。
疲れた体を新しい部屋で過ごす。TVもない殺風景な狭い部屋。
明日から大学に戻る。気持ちの整理はある程度ついたと思う。
夏が終われば4学年になる。
これまで以上に忙しくなるし、何よりもお世話になっているエルヴィンさんとミケさんとは進路も違う。
たった三ヶ月では特に変わり映えのない生活。
ただ、エルヴィンさんとミケさんは端からみても大変そうで、「一日はどうして24時間なんだ?」と珍しく泣きごとまで漏らしていた。
いずれ自分にもくる未来だと思うとゾッとした。
ハンジさんは相変わらずのテンションで帰りを喜んでくれて(強く抱きしめられ、モブリットさんが助けてくれた)やっと戻った実感がした。
リヴァイとも顔をあわせたが付き合う前の彼だった。
それに安堵しどこかで残念に感じる自分の勝手さに自虐の笑いが浮かんだ。
※※※
当初の予定通りにカズサが帰ってきた。
ハンジや時間に追われているはずのエルヴィンも顔を出して帰国を喜んだ。
俺はというと、まだ彼女に近づけない。
吹っ切れた様子のカズサにかける言葉も態度もみつからず、ただの同期にしかなれなかった。
「つまらないものですが…」
「わぁお。お土産だ、君は気の利く女性だ!やったね!」
カズサの土産にハンジがはしゃいでいる。
一人ひとり分用意するのは大変だったんじゃないか?
「どうぞ」
たった一言。親密さの欠けらもないのにカズサが俺に声をかけてくれた。
「ああ。悪いな」
もっと言い方があったはずだ。
でもそれ以上はなくチラっとこちらをみたハンジは目をクルリと回して呆れているようだ。
すぐカズサは別のやつのところに行き、手元には律儀なカズサが選んだ土産が残った。
そして付き合う以前のカズサと俺の日々が繰り返された。
(なあ、空港で俺とあった時お前は何も感じなかったのか)
到底聞けるはずのない思いだけが沈んでいった。