第1章 ”さよなら”
それからは穏やかなもんで、カズサからは無事到着した報告とたまに留学生活についての連絡もあった。
心配だったリヴァイも(本当のところは分からないが)いつも通りの仏頂面で、研究やら講義やらに集中している。
エルヴィンとミケはこれからの準備に忙しくなり、研究の責任者は迷惑なことに私になった。
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カズサが留学してから時間が経つのが遅くなった。
周りはこれからについて必死になってきたし、俺も傍から見りゃそうなんだろう。実際物事を考えるのは早い方がいいに決まってる。
たまにハンジがはしゃいで暴走するのを止めようと自然と蹴りをかますとカズサの向こうでのこと、おしえないよっと痛いとこを突いてくるので、もっぱらその役目はモブリットになった。
あんなに傷つけた俺が思うのはおかしいし自業自得だが、今でもカズサは俺の心の中にいる。
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初めての海外留学が怖いと同時に興味が募って夢中になった。
そこで行われている研究、実際の現場に興奮した。
ここでは実践を大事にしているらしくモジモジしてるのはもったいない。
ホームシックになる暇もなく、すぐに友人、知人もできた。
「カズサは将来をどう考えてる?教授が留学生に目をかけるなんて、中々ないよ。きっと自国でも優秀なんだろうね」
「優秀かはよくわからないけど、凄く勉強になる。将来は…」
「いっその事、自国で免許とったら、こっちに来たらいいんじゃない?」
「あはは、それもアリかもね」
魅力的、ではあるけどそれは一人前になってから。でも遅くない。だからいつも曖昧な返事。
いくら実践的な、とはいえ本当にそうなるとは思いもしなかった。
友人に施設内を案内してもらってると前から顔色の悪い男性がフラフラとしていて倒れた。
すぐに側臥位にして応援を呼んでもらう。
頭は打っていない様子、手足のチアノーゼ。
意識レベルの確認。
幸いことに現職の方々がストレッチャーに男性を乗せER(救命救急室)へと。その間の様子を伝えて邪魔にならないようにする。男性は命に別状なくホッとして今日のところは解散した。
次の日、教授に呼ばれ昨日のことを説明すると咄嗟の行動を褒められ、留学の延長を提案されたが丁重にお断りした。
残念がっていたがそろそろ留学生活も終わる頃だった。