第1章 ”さよなら”
既に飛び立ったのにずっと空の向こうを見てる傷心の後輩を飲みにでも誘おうか?とエルヴィンにコソッと相談すると首を左右に振った。
どうやら放っておいたほうがいいみたいだ。
「ほら、リヴァイ。そろそろ帰るよ」
肩に手を置いて促すと、まるで空気の抜けた風船のようなリヴァイを車の後部座席に押し込む。
ハンドルを握ったエルヴィンが、家でいいか?と訊ねると頼むとこれまた弱々しい声で答える。
いつもなら、こんなリヴァイを揶揄うけどさすがに無理だ。心が痛む。
リヴァイの自宅へと進む車内は暗くエルヴィンがラジオをかけた。
呑気で明るいDJが陽気な曲を流す。
窓を開けて過ぎていく景色をぼんやりと眺めた。
※※※
無事にリヴァイを送ってエルヴィンの自宅に車を置いてから近場で飲もうか、となった。
明日も休みだし、培養細胞も残ってるメンバーが世話することになっているから心配はいらない。
学生が集まる騒がしい店ではなく落ち着いた雰囲気の店に入って、まずはカズサが無事に着くように一杯。
「それにしても私はリヴァイが来るとは思わなかったよ」
「そうか?俺は来ると思ってたぞ」
「ふぅん。なんで?」
「男ってのはそういう生き物だからな」
「説明になってないし。自分の手から離れると不安になるのかな」
「リヴァイはずっと不安だったろうな」
「へぇ、その割に女遊びして自分でカズサとの関係ぶち壊しちゃったよね」
「まあ、その点は完全にリヴァイが悪いんだが、魔が差したんだろうな。そしてどうしたらいいか分からなくなったんだろう」
「やたらと具体的だね。経験者かな?」
「俺のプライベートを探るな」
「はい、はい。しかし難儀だよねぇ。カズサもリヴァイもさ。見ててもどかしいったら」
「二人で選択することだ。余計なマネはするなよ、ハンジ」
「馬に蹴られて死にたくないからねぇー」
お互い酒には強い方だがハンジはいつもよりペースが早い。
可愛がっていたカズサが誰一人頼ることの出来ない異国へ飛び出したのがハンジなりに悔しいらしい。
「俺は院へ進む準備に入るが…。リヴァイをあまりいじめるなよ」
「はぁ、しないよ。あんなリヴァイみたらねぇ」
到着したら連絡すると約束しているらしく、その日は早めにお開きになった。