第1章 ”さよなら”
カズサの出発が近づいている。
弁解だと言い訳だと言われたっていい。
嫌われても軽蔑されても、罵られても構わない。
言葉を交わしたかった。
でもカズサを前にすると怖気づいてしまう俺と模範的な笑顔を浮かべるカズサ。
何も出来ないもどかしい日々が流れ、その日が来た。
※※※
「あっちまで12時間のフライトかぁ。荷物はもう送ったんだっけ」
「はい。他に入り用なのは向こうで揃えればいいし短期間だから荷物もそんなにないんですけどね」
「帰る時は荷物が増えるぞ」
空港まで送ってくれたハンジさん、エルヴィンさんと長時間フライトや向こうでの話しをしていた。
空港は忙しなく行き来する人がそれぞれの目的地を目指している。そして自分もその一人だ。でも現実味がなく他人事のように感じている。
「アナウンスが流れたね」
「気をつけてな」
「はい!行ってきますね!!」
背を向け、保安場へとエスカレーターに乗る。
「カズサ!!!」
不意に大きな呼び声に周りが振り向く。
まるでドラマみたいだ。
走ったのか肩で息をするリヴァイが必死な顔でそこにいる。
視線が合う。
切ないのも悲しいのも喜びも何もかもがごっちゃになって私の中で嵐のように吹き荒れる。
それでもエスカレーターは構わず動いてどんどん離れていく。
油断すると私は泣いてしまうから。
静かに声には出さずにゆっくりと一音ずつ。
”サヨナラ”
リヴァイがなにか言いたげな顔をしている。
もう、エスカレーターの終わりが見えている。
降りるまで私もリヴァイも視線だけは逸らさなかった。
「あーあ。行っちゃったね」
「もっと早く来るかと思ってたんだがな」
もう見えないカズサの残像を探して後ろの二人の方へ向く気もしない。
「エルヴィンが車だしてるからさ。乗ってけば」
「行かねえ。まだ、飛んでねえ」
ハンジがわざとらしい溜息をつくのが聞こえた。
「エルヴィン、時間あるよね?」
「ああ。今日は予定なしだ」
「じゃ、飛行機が飛ぶまで付き合おうっか」
「そうだな」
リヴァイとエルヴィンと三人で飛び立つ飛行機が見える屋上にあがり、カズサを見送ることにした。
空はどこまでも青くて飛び立つ飛行機がよく見えた。