第14章 聲の向こう〈煉獄杏寿郎〉
『本当ですか…!?ありがとうございます!お忙しいのに、突然のお願いで申し訳ありません…。お渡しだけですぐに終わりますので…!あと10分後くらいにお伺いいたしますね!』
「分かりました。オフィスのロビーにてお待ちしておりますね」
『はい!ありがとうございます!では失礼します!』
プツっと電話が切れた。
(…明るい、元気のいい声だったな)
不思議と気持ちがふわりと軽くなった。杏寿郎は受話器を置くと、かれんの到着時刻まで手元の作業を進めることにした。そこに会議室にいた天元が戻ってきた。
「煉獄!悪い!電話誰からだった?」
「気にするな!君のデスクのメモを勝手に見てしまって…。その“檜原さん”という方が、サンプルを今から持ってきてくれるそうなんだ。俺で良ければ代わりに受け取るが!」
「まじで!?てか檜原さん仕事早っ!煉獄…わりーけど、受け取り頼んでもいいか…?俺この後すぐ出なきゃいけなくなっちまって…」
「ああ、構わない!受け取ったら君のデスクに置いておく!」
「サンキュー!まじで助かる!!今度メシ奢るわ!!んじゃちょっくら出てきます!」
天元は駆け足でオフィスを出ていった。
・・・
それから約10分後、杏寿郎はロビーに向かった。するとそこに、薄いグレーのスーツを纏った女性が立っていた。
「…檜原様…でしょうか?」
「っあ!はい!檜原かれんと申します!」
かれんの透った声が響いた。電話よりもさらに澄んだ声と落ち着いた雰囲気がその場を和ませるようだった。
杏寿郎も初めて会ったが、その可憐さに何故か緊張してしまった。
「ああ、良かった。初めまして、煉獄杏寿郎と申します。今日はわざわざお越しくだり、ありがとうございます。宇髄ですが、急遽外出になってしまい…不在で申し訳ありません」
「いえ!とんでもありません!私も何もアポイントも頂かず、突然押しかけるようなことをしてしまい…申し訳ありませんでした。煉獄様もお忙しいところ、お時間いただきましてありがとうございます。宇髄様には私の方からもメールをお送りさせていただきます。…あっ、これがサンプルになります。宇髄様にお渡しいただればと思います」
かれんは大きな茶封筒を杏寿郎に渡した。